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武装神姫のリン 第7話 「ティアVSジャンヌ」 私の名前はティア。愛するご主人様の所有物。 武装神姫ですわ。 で今日はアーンヴァルの基本パーツの1つ。 大口径ブースターの出力を強化した先行試作モデルをいただいたので、その調整と試運転を兼ねて近所の公園で飛行中です。 そのためにご主人様が見ていないうちに辺りのカラスや鳩をレーザーライフルで追い払ったのでいま空に私をさえぎるモノは存在しません。 なんて空を飛ぶのは気持ちよいのでしょうか?? お姉さまにも体感させてあげたいくらいです。 おや、あそこに見えるのは豪華なドレス。 しかしそれを身にまとうのは"ぽっちゃり"と言うのさえも、お世辞にならないくらいに丸々太った体躯。 全くもって美しくありませんわ。 私の瞳はあののような"物体"を映すために存在しているわけではありません。 早めに私の視界から消えていただくことを望みます。 よって威嚇射撃敢行、もちろん直接当てるわけではありませんので問題になることは無いでしょう。 そうして私はレーザーライフルをあの物体の足元に照準を合わせ、出力30%で発射。 いきなりアスファルトが光ったことでアレは逃げ出すはずでしたが、 いきなり黒い服を着たSPらしい人が集まってきました。 どうやら暗殺かなにかと勘違いしたらしいです。 私は面白くなかったのでご主人様の元へ帰ります。 そのときは気付きませんでした。アレがあんな人物だとは…… 俺はリンを定期健診に預けて今日はティアと2人で公園へ、というのもあのリンのレッグパーツのシリンダーを手がけた友人の会社の改良ブースターの先行試作販売型(ライセンスはもちろん取得済み)の試運転に連れてきている。 今日は4月5日。絶好のピクニック日和だ。 もちろん空を飛ぶにもとてもいい天気。 なのだが、ティアのヤツがちょっと目を離した隙に高く飛んで行ってしまった。 で探しているとなぜかレーザーライフルを抱えているのが気になったけども、無事に戻ってきた。 それまでは良かったのだけど…その数秒後俺たちは黒ずくめの男達に囲まれていた。 「あなたですのね!この私、鶴畑3兄妹の1人。和美に銃を向けた愚かな神姫のマスターは?」 後から現れたドレスを着たというより着られている感じのピz…もとい少女が声を発する。 「は???」 俺はわけがわからないので反応が出来ない 「ですから私にレーザーライフルを向けただけでなく、発射したのですよ。」 「……マジ?」 俺はティアに確認する。 「?? 私は見るに耐えない不快な物体に視界からはやく消えて欲しかったから威嚇を行っただけですのよ」 おい…ティア。それが原因なんだよと言う間もなく、俺は意識を失っていた。 俺が目を覚ますとそこは近所のセンターと思われる建物の個室、大会で使用される選手控え室だろう。 しかも俺は手首足首をベルトでイスに縛られている。全く身動きが出来ない。 辛うじて動く首を真横に動かす。左右にはあの黒ずくめの男が立っている。 しかもその手には拳銃が握られている……俺、もうだめなのカナ? カナ? 突然扉が開くとそこにあの少女がいた。その側近らしき男の手に握られるのは鳥かご。 その中にティアがいた、しかもうつぶせに倒れている。 まさか電気ショックでも食らって再起不能なんてことは…やばいのは俺も同じか… 俺の脳裏に最悪の結果が再生される。 「俺たちを処分しようってか・・・・・」 がそれに反した答えが帰ってきた。 「ここで今からバトルを行います。 感謝しなさいな、普通私に銃を向けた神姫ごとき解体処分が当然なのですが……私は慈悲深いのですよ。」 「??」 俺もティアも首をかしげる。 「そこでです、私にショーを見せてくださいますか?」 「ショー?」 「そうです、貴方の神姫に私の神姫『ジャンヌ』そしてその手足となる部隊の神姫たちと戦っていただきます。」 「なっ、1対多数だと!!」 「そうです、そこであなたの神姫がズタボロにやられる瞬間をその目に焼き付けていただきます。今回はそれで許して差し上げますわ」 「……そこのメス豚。こっちを向きなさいな」 突然ティアが起き上がってあの少女を又しても挑発を、いや明らかに侮蔑をこめてそう呼んでいる。 「な、なんですって今すぐスクラップにしてあげましょうか?」 「そのショーの主演、受けて差し上げますわ」 「あら、思ったより素直ですのね。よろしい。まあ貴女の声を聞くのはコレが最後になるでしょうけど」 「ただし、条件が1つ。 私が勝者になれれば私とご主人様を開放し、拘束した賠償金をいただきますわよ」 「……いいでしょう、いちおう聞いてあげます、いくら欲しいのかしら?」 「100万。」 「………わかりました、たとえどれほどの額を要求されてもそれが手に入ることは100%ありませんから。」 「で、相手は何体ですの?」 「そうですね、13体でしょうか?多少増減すると思いますが」 「わかりましたわ、ご主人様を離してくださいますこと? セッティングはご主人様にしか許してないのですけど」 「ではショーの開始は15分後ということで、せいぜい生き残るすべを考えてなさいな」 そうして彼女は部屋を後にする、そして側近によりティアの入れられた鳥かごとパーツ(いつも大会に持っていくバッグにはいっているのでこの場合はバッグと呼んだほうが良いのか?) が拘束を一時的にとかれた俺に渡される。 そうして俺はティアにありったけの装備をつけ、さながら重爆撃機のようなシルエットになったティアに全てを託した。 俺はフィールドが良く見える台の上にイスごと括りつけられフィールドを見下ろすことしか出来ない。 そしてティアと敵の神姫がステージに上がる。 普段は神姫が2体しか存在し得ないフィールドに今は神姫が14体存在している、しかも最初からティアを13体の神姫が取り囲んでいる、面子は今まで発売されたモデル全て。 それにまだ未発売の騎士型の「ジャンヌ」が加わっている。 そしてショーと言う名の公開処刑が始まった。 しかし、そのとき俺はこの公開処刑を影から見つめる1人の少女のがいることに全く気がつかなかった。 アーンヴァル部隊のレーザーライフルによる4方向からの一斉射撃。 改良ブースターの力でギリギリそれを回避するティアに次はマオチャオとストラーフが2対ずつ襲い掛かった。 各々接近戦用の武装である爪やクローでティアを護る追加装甲版を次々とえぐっていく。 がティアはブースターを100%の出力で開放。敵の神姫ごと思い切り壁にぶつかる。 そうしてティアと壁の間に挟まれた2体が沈黙した。 一方のジャンヌはというと、動くはずが無い。 アレは部隊指揮をつかさどるのだろう。 もしくは軍の大将にでもなった気分でいるのか、手にした剣を地面に突き立て事態を静観している。 壁にぶつかったティアが動き出すより早くハウリン部隊とアーンヴァル部隊の砲撃が次々とティアの装備を破壊していった。 そうして巨大MAを模して構成したパーツは全て破壊されたかに見えた。 だがティアはあきらめていなかった。 破壊された翼を壁にして砲撃を防ぎ、あとは残った火器を全て自動砲撃設定で動き回る。 自動砲撃設定はティアが以前から持っていた能力だ。 レーザーライフルがランダムに最大出力のレーザーを乱射する。ライフルが焼き切れるまでの間になんとか3体のハウリンを葬った。 役目を果たしたライフルを捨て、そのままマシンガンやバルカンで弾幕を張りつつティアは必死に逃げる。 だが奮戦も束の間、ティアは持てる全ての外部装甲および銃火器を破壊されたのだろう、アーンヴァルの砲撃が止んだのだ。 しかし煙が晴れた場所、ソコには背後にあったビルの残骸と、それにのしかかられるようになったパーツの山があったがティアの姿は見えない。 その時点で正常稼動している神姫は8体。 砲戦主体のアーンヴァル3体にマオチャオ2、ストラーフ2。 そしてジャンヌという内訳だ。 ティアの姿が確認できていないというのにジャンヌは眉ひとつ動かさない。 そして本体のみの姿となったであろうティアを残りの神姫に探させる。 が一向に見つからない。さすがに和美は我慢ならなかったのか声を張り上げる。 「ジャンヌ! 貴方の技でその残骸を吹き飛ばしてしまいなさい」 「…了解」 そうしてやっとジャンヌが動き出す。そして残骸の目前まで来ると手に持った剣を構え、一気に振り下ろす。 衝撃波が生まれ、残骸を一気に吹き飛ばす。 がソコにはティアの姿はなく、 「フ……ドコを見てらっしゃるのかしら?」 ドコからとも無くティアの声が会場に響く。 そしてその声の出所をジャンヌが割り出す前に仲間であったはずのマオチャオが突進してきた。 「ぐぅ…なぜ」 ジャンヌがまだそのダメージから復帰しないうちにティアが姿を現す。 その手には3つ又の鞭。 「やっと出したか」 あの鞭は普段リンやティアが愛用している対"G"武装の1つで、あのとても俊敏で変幻自在の動きをする"G"を確実に捉え、粉砕する。 そしてティアの鞭さばきはリンのそれを超えていた、あれなら神姫相手でも十分に通用しそうだと踏んだ俺はアレに賭けたのだ。 元々、ティアの戦闘スタイルはあのようなゴテゴテ装備での乱戦ではなく、リンと闘った時の様な本体の身体能力(あのときは違法レベルだったが)とさまざまな武装によってわずかな敵の隙を突くスタイルだ。 そのために俺は敵の頭数を減らすためにあんな超重装備でティアを送り出したのだ。 先ほどのマオチャオの突撃は鞭を脚に巻きつかせ、反応されるより早くジャンヌに向けて投げ飛ばしたのだろう。 特別製のジャンヌは無事でもマオチャオの装甲は通常のモノ、あの衝撃には耐えられない。 そうしてやっと敵の数が半分になった所でティアの本当の力が発揮される。 ティアが今頼りに出来るのはあの鞭、そして左右の腰に備え付けられたライトセイバー2本、そして左腕にあるシールド1つ。 それでもティアはザコの神姫を次々と葬っていく。 ジャンヌがダメージを受けてからそいつらの動きが鈍くなっている。ソレを見ればいくら俺でもどういうことかは想像が付く。 ジャンヌ以外の神姫はジャンヌの命令によって動く人形だ。そして今のジャンヌは先ほどのダメージによってその命令を送る回路に不具合が発生したのだろう。 それならティアがやることは1つ。 ジャンヌに攻撃を加えればいいのだが………ティアさん??? 貴女は何を?? ティアはひたすらに鈍くなった(とは言えサードリーグなら3回戦には進出できるぐらいのレベルだと思う)神姫を1対ずつ破壊していく。 「ウフフ…こうやって鞭で敵の神姫を倒すのって、カ・イ・カ・ン☆」 どうやらも俺が何を言っても無駄らしいです、勝てるなら早くやっちゃってくださいティアさん(泣) そうして鞭1本でザコ神姫を全て粉砕して、ティアがジャンヌと対峙する。 「あんなオモチャで私の相手が務まるとお思いでしたの?」 そうして勝ち誇るように和美に向かって言う。 もちろんあちらさんの怒りはピークに達していたのだろう。 「ジャンヌ! モードを軍神から騎士に変更。そいつをバラバラにして差し上げなさい!」 「了解」 ジャンヌの雰囲気が変わる、側近の男がコンテナらしきものをフィールドに投げ入れ、ソコから強化装甲、そしてとても長大なランスが出現した。 ソレを空中で受け取り、瞬時に装着するジャンヌ。 本気だと悟ったティアは気を引き締める。 敵はランスを構えて一直線に突っ込んでくる。ティアはソレをかわすが、ランスはすぐに方向を変えて追ってくる。 あの重量の武器を受け止めることは叶わないと悟ったティアは1度距離をとろうとするがソレを許す相手ではない。 なんとかシールドでランスをそらす。だがシールドにはそのたびにヒビが走る。 そうして5度目の攻撃をそらしたときシ-ルドが瓦解。 しかしティアは逃げない。敵の懐に入り込む。 「戦闘経験が少ないのかしら、大振りすぎでしてよ」 そのまま敵にタックルを食らわせる。 敵がランスを手放したのでライトセイバーでソレを切断。 次に本体を、と思ったがそれは敵の剣に防がれる。 さすがに騎士型というわけか、剣技はティアのそれを上回る。 剣1本に対してライトセイバー2本でもティアは押され気味だ。 「騎士をなめるな!」 そうして一閃で両手のライトセイバーを弾かれた。 「すぐに終わらせてやる」 もうティアに後は無いと思われた。 「終わるのは貴女のほうでしてよ」 ティアがジャンヌに飛び掛かる。 「そんなに頭を割って欲しいか!」 ジャンヌの剣がティアの頭部をヘッドギアごと切断せんと迫る。 俺は叫びたかった、でもソレが出来なかった。そうしてティアの頭に剣が触れる 「…だから、大振りはだめだと言ったでしょうに」 その直前に ティアの手首から伸びた糸がジャンヌの両腕を切断していた。 そのままティアはジャンヌの身体を押し倒してマウントポジションを取る。 そして剣を取り上げて突きつける。 「チェックメイト。ですわね」 そうして和美に同意を求める。 「キーーーーー、お好きにしなさい! 小山、ジャンヌを回収、あとは放って置きなさい。 あの小切手は男の足元に、帰りますわよ!」 彼女はとても腹を立てた様子でバタバタと足音を立てて帰っていった。 って、小切手はいいから俺の猿轡をほどいて欲し、って何で首筋に手刀が…そのまま俺の意識は遠くなっていった。 「ずいぶんみっともない格好」 不意に懐かしい声が聞こえた。 「ふぁふぇ(誰)?」 猿ぐつわを解かれ、仰向けになった俺の瞳に写るのは……水玉パンツ 「水た……ぐふェェ」 声の主に思い切り踏みつけられたらしい。 「たとえ見えていても、それを口にするのはダメ」 「わかった、だから足をどけろ」 「…どうしようかな~」 そこにティアがやっとの思いでフィールドからこの展望席までやって来た、そして俺を見て一言。 「ご主人様は極上のMですのね」 ち、ちが。 だから何でそこで踏みつけた足をぐりぐりしますかな、コイツは。 「あ~~分かりました、茉莉様、足をどけてくださいまし」 そうしてやっと水玉パンツ…いや声の主、 『篠崎 茉莉』は足をどけてくれた。 とりあえず紹介しておこう。 彼女の名前は篠崎 茉莉 いちおう幼なじみになるのだろうか? 年は五つも離れているのだが小さい頃は近くの家には同年代の子がいなくて、いつも俺が遊び相手だった。 そのためか今では俺よりロボットなどに詳しく、神姫を買う最後の一押しをしたのは茉莉だ。 小さいころは俺をお兄ちゃんと呼んでくるたかわいいヤツだった。 ただ、小学時代に重い病気になり(俺は妹のようにかわいがっていたからほぼ毎日見舞いに通った)結果一年遅れで進学した。 よって通例なら今大学一年のはずだ。 しかし幼少時代の仲のよさ故か、厄介なことに両親同士で勝手に婚約が交わされていた。 俺がそれを知ったのは大学二年のとき。 確かに容姿は見栄えする方だし、スタイルも悪くない。 しかも基本的に俺を慕ってくれているがまだ俺には決心がつかない状態だった。 俺がなぜこの町にいるのか? と聞くと 「私、亮輔ん家に居候させてもらうことになったから、ヨロシク」 と、当然のように答えたので俺は思考は停止した。 「詳しくは家に帰ってから。ね?」 そうして茉莉は俺の腕を抱き寄せ、そのふくよかな膨らみを当ててきやがった。 「ご主人様、私たちというものがありながら、浮気だなんて(ニヤリ)」 周りの人からは「あんな見せ物になっていたうえに今度は痴話げんか、全く最近の若者は…」なんて視線が突き刺さる。 「だぁーーーーー、わかった、茉莉の話はレストランで聞く。それとティア、今日の騒動はお前が原因だ。だから予定していた買い物はお預け!」 「そんなぁ、100万も儲けましたのに、何故ですの?」 「何でも!! とにかくリンを引き取って、茉莉の話を聞いてからだ」 「じゃあ決まり、早く行こうよ」 そうして俺を引っ張っていく茉莉。 「ああん、ご主人様あぁ置いていかないでぇ~~」 出遅れたと思ったらしいティアが慌てて追いかけてきてジャンプ。 そのまま俺のかばんに潜り込んだ。 そうやって俺の人生で一番にぎやかで、心身ともに擦り切らせることになるであろう1年間が始まる。 ちなみにリンが俺に寄り添う茉莉を見た瞬間に目に涙を浮かべ、次の瞬間俺に鋭いビンタを食らわせたのもほんの序章にすぎないのだ。 ~燐の8 「ホビーショップへ行こう!」~
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凪さん家の弁慶ちゃん 「義経、準備は良い?」 「…はい、TR-2全システムオールグリーン…いつでもどうぞ」 「おっけ!じゃあいくわよ!皆!」 「「「了解!」」」 凪さん家の弁慶ちゃん/0 「TR-2」 「アーサー、ハンゾー、義経、状況を報告!」 「アーサー異常なし!」 「…ハンゾー、問題ない」 「義経、異常ありません」 「よし、アーサー、ハンゾーはそのまま前進、義経はユニット展開後待機!」 「「「了解」」」 今回もうまくやってみせる。私はそう誓った。 今回は「T3」として私こと義経はこのリアルバトルのチーム戦に参加していた。 しかし今回の戦いでは指揮を担当するマスターは一人という制約が課せられている。 なので通常、早坂未来が私に指示をだすのだが今回は渡瀬美琴がチーム全体の指揮を取っていた。 この大会でアーサーはTR-1という強化ユニットを装備、これは陸戦型アーンヴァル、または量産型ストラーフといった感じの装備で、脚部はアーンヴァル純正装備にストラーフの脚部装備を移植、そしてストラーフのサブアームのマニュピレーターを汎用性の高いものに交換し長さを調節したものだ。 その手には奇跡の剣という名の剣が握られていた。 そしてハンゾーにもこのTR-1ユニットが搭載され、こちらはカロッテTMPを二丁装備している。 そして私はこの二人とは違う装備を身につけていた。 TR-2 これは高威力の超長距離射撃を行う事を目的に、現存する神姫純正武装でアッセンブルされたものだ。 脚部はストラーフの脚部装備をアーンヴァルのブースターなどで固め右腕にはアーンヴァルのLC3レーザーライフルが二門装着されている。 しかし使用するのは一門のみ、あとの一門はレーザーの増幅器として機能する。 背部には吠莱壱式が二門。これは攻撃用ではなく、あくまでも緊急移動用としての装備である。 いちいちブースターを吹かすより実弾兵器の反動の方が始動が早いのではないか…という目的で取り付けられたものだ。 本当にそうなのだろうか? そして各部アタッチメントコネクターにはヴァッフェバニー用の背部タンクやジェネレーターが装備され、そのすべてをレーザーライフルに直結させる事によって限界まで威力を上げている。 はっきりいって神姫用の装備としてはあまりにも特化しすぎており、これで神姫といえるのだろうかという疑問も生まれてくると言うものだ。 しかしこれが後に世に出る姉妹達への開発データになるのならば、甘んじて受けるとしよう。 「義経、TR-2装備完全展開完了」 「よっし!相手方に一発でっかいのをお見舞いしちゃいなさい!」 「了解!エネルギー充填開始…収束率増加、ロックオン完了…発射!」 ヒュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン… 砲身にエネルギーの渦が形成され ビャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!! 空気を切り裂く青白い光が照射された。 その太さは通常のレーザーライフルのものに比べるとはるかに図太く、禍々しい。 その光が敵チームを包み込み一瞬にして行動不能にした。が、何とか逃げ延びた神姫がいたようだ。 「どう?」 「右腕に衝撃による不具合が少々、でも予測範囲内です」 「わかった、次いける?」 「もちろん!」 「よし!じゃあ第二射!てぇー!!」 「了解!」 なんだ、楽勝ではないか。この装備初弾である程度敵チームを壊滅させれば第二射までアーサーとハンゾーが私を護衛してくれれば勝利は間違いない。 または右腕への損傷を最低限にするならばこのまま私は待機して、あとは二人に任せても良い。 「TR-2はほぼ成功ですね」 「ええ、中々良いわ」 「よし、第二射充填完了…いきます!」 ひゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ… 再びエネルギーの渦が形成される。そして青い光が大地をえぐる… はずだった。 ビビー!!ビビー!!ビビー!! 「!?」 「義経!?」 ライフルの砲身部から異常。あまりのエネルギー量にライフルの許容限界を超えたらしい。 そのエネルギーの一部が逆流して、システムに過大な負荷を与えている。 「く、ライフルへのエネルギーを全カット!砲身切り離し、緊急離脱ブースター展開!」 ライフルからエネルギーの光が漏れる。その光が私を包もうと迫ってくる。 「!く…腕が…!」 「早く離脱しなさい!義経!?」 「そうしたいですが…無理みたいです。腕が挟まって…抜けない…」 崩壊を始めたライフルなどのパーツにより、私の右腕は付け根からがっちりと挟まっていた。 「あぁもう!!諦めるなぁ!!」 「くそ!くそぉ!」 こんなところでスクラップになってたまるか!! 「こうなったら…!!」 私は脚部に装備されていたナイフを手に取り 「うあぁぁぁぁ!!」 自らの右腕に突き刺した。 「っくぅぅぅぅ!」 なんという激痛か…しかし! 「まっけるかぁぁぁぁ!!」 バチィィィ!! 左腕で右腕を抉り、無理やり引き剥がした。 そしてブースターを噴射。瞬間ライフルユニットが爆発。その爆炎が迫り私を完全に包む。衝撃と高温で体が焼かれる。しかし間一髪スクラップは免れたようだ。 赤い光に包まれていた景色がドームの光りに照らされたいつもの景色に戻る。 ブースターはすべて焼ききれたようで噴射できない。 そのまま自由落下により大地に叩きつけられた。 ドッザァァァッァァァ!! 「ぐぅぅぅがはっ!!うが、あぁ…くぅ…」 状況は芳しくないな…右腕破損…頭部に損傷…両脚部損壊…か…まぁAIに以上は無いようだ…。でも戦闘は無理だな…。とりあえず活動限界か…。 『ピピーピピーピピー試合中止、試合中止』 ドーム内に響く音声、私の意識はそこで切れた。 「む…」 充電完了…各部異常なし…生きている…のか 「…つね!よしつ…!!義経!」 「く…未来…?」 私の目の前にはマスター、早坂未来の顔があった。 「起きたぁ!」 「義経!」 「…起きたか」 「…ふむ」 「おぉ!」 「う…う~ん…!?」 「気付いた?その体」 「頭部形状…それに右腕が…これは…」 「アドバンスドユニット」 その声の先には渡瀬美琴。 「?」 「衝撃対策として右腕間接を汎用強化間接ユニット「リボルバージョイント」に換装、そして頭部ユニットを換装して情報収集能力を上げたの。本当はバイザー式にするつもりだったのだけど、損傷がひどかったから丸ごと換装したんだけど…どうかしら?合わなかったら既存パーツに交換するけど」 アドバンスドユニット…体に施されたマーキングライン以外は既存の素体であった私の体が…強化された? 確かに視覚ディスプレイに追加された項目がある…これは今後装備されるTRシリーズのためか…?それに右腕…今回の戦闘での意見がフィールドバックされたのだろうか…。 「合わないかな?」 「いえ、そんな事はありません」 「そう、よかったぁ~」 「それに合わなかったら合わせます。それが私です」 「ふふ、そうね。まぁ今日は一日ゆっくりして慣らしていって」 「はい、分かりました。ありがとう、美琴」 「はいな、んじゃまた明日」 「ええ、また明日」 「有難うございました、先輩!」 未来が美琴達にぺこりとお辞儀した。 そういえばここは…あぁ部室か…。 明日からまたさまざまな装備を試す毎日が始まる。武装…決まった装備が無い私にとっては毎回毎回ワクワクする時だ。 そりゃ今回みたいな危険は常に付きまとう。 しかし誇りに思う。 私に装備された物がブラッシュアップされ、次の世代の神姫の武装になる…。 そんな特別な関係性に…。 渡瀬美琴は既存部品を組み合わせて新たな武装を作り出す優秀な装備開発者だ。 そして神姫開発の上層部に父親がいて、武装神姫の初回モニターでもある未来…。 私に装備されたものは情報として逐一開発部に送信される。 今回のTR-2がどうなるのかは分からないが…。 この時、砲撃用に特化した装備…という部分が後のフォートブラッグへと繋がることは私達はまだ知らない。 知る事になるのはTR-5が開発され、新たな仲間、弁慶が来てからの事である…。
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ホワイトファング・ハウリングソウル 第十九話 『砕かれた未来~The broken future~』 時は少し遡る。 ぽつりと、アメティスタの頬に水滴が当たる。 それが都か或いは自分の涙か、それとも雨か・・・アメティスタにはわからない。 「・・・・言いたいことは、それだけ・・・?」 都は、そういうと右手を大きく振りかぶる。 「駄目だ! マスター!!」 「マイスター!!」 都がやろうとしていることを理解したハウとノワールが止めようとするが、もう間に合わない。 大きく振りかぶられた右手は、ほんの一瞬、躊躇するように止まってから 「――――――――――――――!」 勢いよく、振り下ろされた。 ・・・・・・・・アメティスタは、ゆっくりと目を開ける。 自分の体がまだ無事であることに疑問を覚え、横を見る。 そこには都の手があった。 「・・・・壊さないの?」 その手をみながら、彼女は言った。 都は何も言わない。 「・・・・ボクは、キミになら壊されてもいいと思ってたんだけど」 「・・・・・・・・・・いだろう」 と、都が何かを口にする。 「・・・・殺せるわけ、無いだろう・・・!」 都は・・・都は泣いていた。 雨の中でも判るくらい、泣いていた。 「どうして? ボクは武装神姫・・・ただのオモチャだ。それに殺すんじゃない。壊すんだ」 「・・・私は、ハウとノワールを家族だと思ってる。・・・・サラとマイは友達だ・・・!」 「ボクたちを人間と区別していないのか。それは単なる誤解と錯覚だ。ボクたちとキミ達じゃ根本的に・・・・」 「そんなことは判ってる」 都はそういって、アメティスタを押さえつけていた左手を離す。 「・・・・・でも、殺せない」 「・・・・なぜ?」 「・・・・そんな泣いてる奴を、殺せるか」 言われてアメティスタは始めて気づく。 彼女の頬は・・・涙で濡れていた。 「・・・・・・・・・どうして」 「そんなもの私が知るか・・・畜生ッ!」 そういうと都は持っていた石を川に向かって投げつける。 大きな音がして、小さな水柱が上がった。 「・・・よかった。マスター・・・」 「・・・・ん」 と、都を止めようとしていたハウとノワールが溜息をつく。 「・・・悪かった。ついかっとなってな」 その様子を見て都はすぐに謝った。 間違いを起こす前に本気で止めようとしてくれたからというのもあるが、やはり心配をかけたからだろう。 都が謝り、発言するものがいなくなり場を静寂が包む。 その静寂を破ったのはやはり都だった。 「・・・・お前、壊れてなんていないだろう」 その言葉はアメティスタに向けられたものだった。 「・・・・どうしてそう思うのかな?」 都の言葉にアメティスタはそう返した。 「簡単だ。お前、私を怒らせようとしてたな? 昔の事を思い出させて怒らせて・・・自分が真犯人だって言って。そんなことを言われたら私がどうなるか、判っていたんだろう? 小さな予言者さん」 今までのお返しとばかりに皮肉たっぷりに都は言う。 「どうなるか判ってて何故私にそんなことをするのか。何故罪の告白がしたいのに、相手を怒らせるのか。それが判らなかったが・・・お前、もしかして殺して欲しかったんじゃないか」 アメティスタは答えない。 しかしそれは肯定と同義の無言だった。 「さっきの話だと“壊れてるからアシモフコードを無視できる”はずだ。だったら自殺だって・・・できるはずだ。じゃぁなんで私に殺させようとする? それは・・・お前が壊れてないからだ」 「穴だらけで推理とも呼べない。それは殆どがキミの妄想と傲慢と身の程知らずから来た考えにしか思えないね」 ようやくアメティスタが口を開く。 「そもそもボクが自殺したがってるって根拠は何さ。それにボクは衛にぃを・・・殺した。これで壊れていないわけが・・・」 「アシモフコードが未来予知とか、そんな事にまで対応できるわけ無いだろう。元々コードには抵触しないんだよ。・・・・衛のことはな」 「・・・・ボクが見た程度の事じゃ、マスターの死に直結するとは判断されなかったってこと?」 「そうだ」 都は肯く。 アシモフコードは今更言うまでもなくロボット三原則の事だ。その第一条・・・『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危害を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない』にアメティスタの予言は抵触するか否か。 するわけが無い。 それはまだ起こっていない事、起こるかどうかすらわからないこと。 そして何より・・・予知は果たして神姫のアシモフコードに認識されているかということ。 「アシモフコードに認識されなければそれはプログラム的には“無い”ことにされるんだろう。もともと予知そのものがイレギュラーな要素だから認識されないのはある意味当然といえる」 「・・・つまり、あれは不幸な事故だったというの?」 「そうだ。アイツが死んだことで、誰か悪者を作り出すなら・・・車の運転手以外にだれもいやしないってことさ」 都はそういって黙る。 雨は、少し酷くなってきていた。 「・・・キミはそれで、納得できるの?」 「理解できないものに何か理由をつけ、理解した気になる。それが悪いこととは言わないがね。納得するさ。だってあそこで・・・私の目の前で起きた出来事には、お前が介入する余地なんかないんだから」 都は迷い無くそういいきった。 それは・・・アメティスタの罪を、許すといっているのと同義だ。 「・・・はぁ。また死に損なっちゃった。いい加減、衛にぃの所に行きたいんだけどな」 「やっと本音を言ったなこの馬鹿魚」 アメティスタのその言葉に、都はキシシと笑う。 その笑顔に偽りは無く・・・本当に楽しそうだった。 「・・・なぁ。お前、今何処に世話になってるんだ」 「山下りたとこにある神社だよ。・・・・ボクを引き取るってんならお断りだよ。ボクは今のこの生活が気に入ってるんだ」 「お見通しか」 「・・・ま、たまには遊びに行ってもいいけど」 「・・・・クク、素直じゃないな」 そういって更に笑う都。 雨はもう・・・・降っていなかった。 前・・・次
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武装神姫のリン 第14話「無名」 「距離200.100.50....来る!!」 大きな砂煙を上げて敵の大型機動兵器が姿を現す、巻き上げられた砂煙によって完全な姿は分からないがシルエットで"ソレ"が球体であることが認識できた。 しかし… 「なに、この臭い!!」 「うっ…この臭気は……」 「鼻が、歪む」 「おねえさま コレは!」 「頭がくらくらする…」 「こういう兵器…なの??」 いままでに感じたことのないほど醜悪で、怖気さえ感じるおぞましい臭気が皆を襲う。 どうやら機動兵器から発せられているらしいが、ただの兵器にここまでの臭気を発生させられるのだろうか?? まだ敵は動かない。ならばと臭気に負けじとセリナがコンテナから2連装式のガトリングガンを引き出し、グリップを握る。 「ふぅ…みんな下がって! 先制攻撃行くよ!!!」 「ええ、セリナ。お願い。」 セリナは照準を球体のシルエットの中心に合わせ、トリガーを引いた。 先ほどまでの静寂な空気をまさに吹き飛ばすほどの大轟音が響き無数の弾丸が数秒で敵に打ち込まれる。 そして砂煙が晴れる… そこに現れたのは全身を機械で覆った球体型の兵器ではなかった…皆の瞳に映るのは極彩色に彩られ、生物の臓物をぶちまけたかのような肉片が集まったような、そんな代物だった。 そしてその中心にそんなものとは無縁とも思える先鋭的なシルエットをもつ「ロボット」が埋め込まれるかのように存在していた。 ガトリングガンの弾は全てそのロボットの胸部に命中しその表面には無数の穴が開いていたかに思えたが、時間が巻き戻るように修復。さらに肉塊からずるりという音も無く滑り降るかのように抜け出し、降り立った。 その姿は巨大な鉄塔のようであるが、まぎれもないヒトガタ。 いや、しいて言えば腰より下がとてつもなく長いドレスを着込んだ女性のような鋼鉄の巨人だった。 「……ネームレス・ワン」 俺はソレの名前を自然と口にしていた。 「ああ、アレね。30年以上前のゲームでしたっけ」 静菜も知っているようだ。 コレの恐ろしさはよく知っている。 まあ確かに恐怖小説郡を元にしたゲーム…「デモンベイン」の中の存在ではあるがその能力は正に「機械仕掛けの神」という表現がふさわしい。 もちろん本体もそうではあるが、何より面倒なのは後ろに存在する肉塊。 あれはの恐怖小説郡の総称にもなっている狂った世界の神、「クトゥルー」だ。 あの姿、無限心母を取り込んだ状態…なら次に起こす行動は1つ。 おれはインカムを手に取って叫ぶ 「絶対触手に捕まるな!! 捕まると数秒で食われる!!」 俺が叫ぶと同時にクトゥルーから無数の触手が生え、SFFを襲う。 皆飛びずさりながら後退するがセリナだけは臭いにやられたのか、足を取られてしまう。 それを感知した触手は想像を絶する速度でセリナに迫る。一番動きが遅いと「本能」で感じたのもあるだろう。 「こ。こないで!!!」 必死にガトリングを撃つセリナだが触手の数は一向に減らない。そうして1本の触手がガトリングに触れ、溶かしていく。 そうして防御の策を失ったセリナにゆっくりと触手が近づく。 「セリナ!!」 触手をナイフで切り裂き何とかギリギリでファムがセリナを抱え上げて飛翔。 「リン、頼みます!!」 「ハイ!! 撃ち抜け、神雷!!!」 あの衣装を纏った燐が大剣、ザンバーフォームに変形したバルディッシュを大きく振りかぶり、思い切り横薙ぎに振りぬく。 "Jet Zamber" 巨大な黄金の刃が無数の触手を、そして巨人、クトゥルーまでもを切り裂いていく。 もちろんSSFメンバーおよび燐とティアの武装の公式戦用のリミッターは解除され、その上SSF独自のプラグインによって威力はあの事件の時よりも上がっている。 その威力を燐は存分に発揮させているがこれでも多分時間稼ぎにしかならないだろう。 クトゥルーの恐ろしさは何より常識外れの再生能力にある。 この力を借りた敵を倒すのは「デモンベイン」劇中でもたやすくは無かった…少なくともクトゥルー本体を完全に消滅させるレベルでなければ話にならない。 つまりコンテナの反対側に積まれた「切り札」を使わなければいけないのだが、この状況では使えない。 それは目標に接触しなければなんの意味もなさない。 ネームレスワンが身代わりになれば、そこで俺たちの敗北が決まってしまう。 まだ敵は修復中だが触手は範囲内に入ったものを捕食する自動プログラムなのだろう、キャルが適当に投げたガトリングガンの破片を瞬時に捉え、食す。 「これだと近づけないわね、どうする?」 「やっぱり"あれ"はまだ使わないほうが、起動から敵への到達までの時間をこのままだと稼げません。せめて後5人いたら…」「5人…望み薄。 後ろの部隊もまだドンパチやってるよね、静菜さん?」 エイナが静菜に確認する 「そうね、どう考えても貴女たちがいる階層に到達するのは今のペースなら3時間後。持たないわ。」 「ん?? 隊長。 識別不明の5機の兵器??を確認。 ものすごいスピードでこっちに向かってます!!」 「識別不明? 警戒して」 「はい……?? 突然反応が消えました。 ジャマーか何かを使用したとおもわれますが、ウチのセンサーから逃げるなんて」 「…」 静菜は顔を引きつらせる。 「ファム!! 皆、装備を整えなさい!!」 そう静菜が叫んだ瞬間、ネームレス・ワンの周りに5体の新たなヒトガタが出現した。 「なんともひねりが無い、逆十字の登場ね。」 現れたのはネームレス・ワンほど巨大ではないが神姫の3倍はある巨体。同じく「機械仕掛けの神」と呼ばれる存在だった。 ベルゼビュート、ロードビヤーキー、クラーケン、サイクラノーシュ、皇餓。 その5体は瞬時にSSF各メンバーに取り付いた。 ベルゼビュートはファム、ロードビヤーキーはエイナ、クラーケンはメイ、サイクラノーシュはセリナ、皇餓はキャルに。 そして…消えた。 「強制転送か!!」 「皆を追って」 「了解」 そうして一がキーボードを叩く。 「座標判明。 見事に5箇所に分断されてます。 お互いに助けに行くのは難しいです。」 「皆。自分の神姫のサポートに全力を尽くして。 私もコンソールに付きます。」 そうして隊長席から腰を上げた静菜は一の横の開いたコンソールに座る。 「もう、失うのはイヤだから…」 そう呟いた。 「亮輔、私もティアの助けになれるかな?」 俺の後ろで言葉を発さず見守っていた茉莉が言う。 「ああ、声だけでも十分だ。」 「わかった、私もがんばるね。」 そうしてSSF本部に設置されたの7つのコンソール全てが埋まった。 「燐、ティア。お前達が本命担当だ。 思いっきりやるぞ!」 「コテンパンにしちゃえ!」 「ハイ、マスター、茉莉!!!」 「ええ、分かってますわよ!!!」 ~燐の15 「無垢なる刃」~
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戻る TOPへ 次へ 一回戦目はシルヴィアの粘り勝ちだった。 一撃離脱を繰り返すシルヴィアと、数少ない反撃のチャンスを物にする敵マオチャオ。時間経過と共に両者に蓄積されるダメージ。三度目の格闘戦にもつれ込んだ際に功を焦った猫型が迂闊なステップを踏み、そこをマグネティックランチャーで迎撃。接近の間合いで放たれた高速貫通弾は猫型の装甲を貫いた。 敵は一回戦目から持久戦に陥った事により焦れていたのだろう。だがおれ達のテンションは最高にクールだった。御影キョウジと《ミラー・オブ・オーデアル》マスターミラーを倒す。この目標を掲げるシルヴィアは焦りが生じやすい持久戦の中でも勝利を見逃す事は無かった。 二回戦目までまだ間がある。控え室に戻り、備え付けの自販機でホットココアを購入。シルヴィアには神姫サイズのアップルティーを買ってやる。コーヒーブレイク。二人とも珈琲飲んでないけど。 神姫サイズの紙コップにアップルティーが注がれていく様を見て、おれはまた昨日の出来事を思い返していた。 ツガル戦術論 鏡の試練 後編5 エルゴのバトルフロア。バトル観戦の途中でブレイクタイム。休憩スペースに備え付けられた自販機を認める。マスターミラーに飲食出来るのか確認し、ミラーの好みに合わせてドリンクを選ぶつもりだったが、その必要は無いと彼女に言われた。 飲食が出来る神姫と一緒に食事する際は、マスターの分量を神姫に分けてあげるのが普通だ。武装神姫と言うバトルサービスが市民権を得ているとは言え、神姫と食事をするユーザーが一般的に多いわけではない。神姫用フードサービスなどは見たことは無いし、もし現実的な状況になったとしてもコスト的な観点から普及はまだまだ難しいだろう。かと言ってマスターが神姫のために人間一人前を注文しては無駄な出費が多い。そんな重箱の隅に転がる要望にいち早く応えたのが通称「ちっちゃい物研」。彼らは神姫サイズまで小型化された自動販売機の製作に着手したのだ。自動販売機の概念発祥は紀元前の古代エジプトまでさかのぼり、国内に於けるメカトロニクスの元祖は二十世紀初頭に完成されていたが、新世紀から四半世紀を余裕で過ぎた今日のテクノロジーを以ってしても紙コップ自販機の、あの『飲み物が流れた後に紙コップが降ってくる』悲劇は健在だった。 神姫のドリンクを缶で提供するにはあまりに大掛かりな投資になる。紙コップ式の選択は必然と言えた。だが前述にある悲劇の存在が技術者達の行く手を阻む。神姫達にあの悲劇を味あわせてなるものか! かくして男達は立ち上がる。だが製作は難航した。突貫作業でこさえた試作一号はとても満足の行く精度は出なかった。そして失敗の連続。いたずらに過ぎて行く時間。無力感と絶望感が男達に圧し掛かる。 男達の神姫は彼らを思いやった。 「マスター、もういいんです。私はマスターの好きな飲み物は全部、大好きですよ」 「砂糖やミルクが入ってないコーヒーでも、私、飲めますから!」 「頼れる神姫にはブラックが似合うんです! …あれ? おかしい… な」 「やっぱり… まだ… 飲めませんでした。私、まだまだ、頼れる神姫じゃないみたい… です」 男達は再び立ち上がった。何度も試行錯誤を繰り返し幾度も挫折を味わい数々の困難と逆境が彼らを襲う。つらく苦しい長期戦となった。だが男達は一人として諦めたりはしなかった。何故なら男達の目は常に未来を見据えていたからだ! そしてついに神姫サイズの紙コップ自動販売機の先行量産型が完成した。 数少ない先行量産型は大規模神姫センターに先行モニターとして設置され、そのうちの一台は製作スタッフの熱意あるプッシュにより『ホビーショップエルゴ』に設置される事と相成った。 かくして、エルゴのバトルフロアには神姫サイズの自動販売機が設置され、休憩スペースにおいてマスターと神姫が個々の好みのドリンクを片手に、今まで以上に賑わう事となったのである。 だがこのマシン設置の裏側に上記の壮絶なドラマが存在する事を、多くの人は知らない。 「私にはグレープジュースを頼む」 氷は抜きで。 神姫サイズの紙コップに黄金色のドリンクが注がれてゆく。途方も無い技術の塊とは思えないほどの手軽さで神姫サイズのグレープフルーツジュースは完成した。こんな極小サイズで精巧に動くこの筐体を初めて目の当たりにし、製作秘話を知らないおれでも製作者に最大限の敬意を持った。 大会の二回戦目は大いにてこずった。 敵の武装構成は大幅に手を加えられており、コンセプトを一言で表せば突撃兎型。武装はバズーカ、フックショット、マイクロミサイルランチャーをひとまとめにした統合武装火器を一丁装備。全身を覆う重装甲に背面高機動ユニットを装着した出で立ちのバッフェバニーによる執拗な攻撃がシルヴィアを襲った。 一個の兵器を評価する際、一般的に重視される能力は『攻撃力・防御力・機動力』の三点である。この評価はバトルステージに立つ神姫にも当てはまる。これらの要素はお互いにバランスを取り合うように存在しているのだ。『攻撃力』と『防御力』を上げれば重量がかさみ『機動力』が落ちる。『機動力』を上げるためには『攻撃力』と『防御力』を削る必要がある。『機動力』をそのままに『攻撃力』を上げるためには『防御力』を削ぎ落とさなくてはならない。云々。あっちを立てればこっちが立たずのジレンマの連鎖、トリレンマが延々と付き纏うのだ。明確なコンセプトが見えるマスターは、この限られたリソースを神姫の戦術に合わせ、三点に的確に配分しているのである。 外部電源装置、パワーユニット装着などの手段を講じればリソースの底上げが可能である。だが、攻撃力の増強はある上限を超えれば過度の武装装着と言う手法を取らざるを得なく、複数火器扱いの煩雑さが足枷となり得る。防御力の増強は装甲過剰装備による可動クリアランスの低下、及び運動性の低下を招き、結果的に攻撃力と防御力の低下につながる。機動力の増強は、パワフルな機動ユニットの制御技術と高度な射撃及び格闘能力が無ければかなわない。 明確なコンセプトを打ち立て、余りあるリソースを適切に配分しなくては強化足りえないのだ。もちろん創意工夫と取捨選択により上記の欠点を抑えつつ強化する事は可能であるが、即ちマスターの武装選択センスと神姫の高い能力無しには無し得ないパワーアップなのである。手軽に取れる手段では無い。 だが今回の相手、敵兎型の装備する武装センスと、それらを操る神姫の手腕は洗練され尽くしている。重装甲により高い防御力を実現。パワーユニット兼機動ユニットを背負う事で機動力を確保、さらに複数火器を一つにまとめる事で総重量を抑え機動力低下の懸念を解決している。総合攻撃力こそ控えめなものの、右腕に装備された統合武装バズーカ『カリーナ=アン』のコンセプトは明確である。即ち、「マイクロミサイルで撹乱しフックショットで押さえつけバズーカで粉砕する」。脅威の度合いは、限りなく高い。 こんな敵に小細工は通用しない。真っ向勝負だ。 シルヴィア、飛翔。敵の唯一の弱点である低い運動性に付け入るために、近距離射撃戦を敢行する。 ホットココアを片手に、スクリーン上で繰り広げられるバトルの戦術分析を続行していると、こちらの度肝を抜く神姫が出現した。コートを羽織った犬型。カバンやコートの中に武装を仕込む暗器使いとして分析を続けていたのだが。彼女が劣勢に追い詰められると何と発光、そしていかにも戦闘には不向きな、こう、「ヒラヒラでフリフリ」とした衣装へと変身を遂げたのだ。いや落ち着け、あれは武装換装の一形態だ、と分析を続行したが、珍妙な名乗りを可愛らしい声で述べられると、おれは口に含んだホットココアを吹き出すしか無かった。なんだあれは。理解不能。だが顔を真っ赤に染めながら変身後の前口上を述べるハウリンタイプを見れば、マスターの明確な意図が心に響く。 おれは心の中で静かに親指を立てた。 グッジョブ。 心の栄養を補給し、引き続き戦術分析を続ける。 続く 戻る TOPへ 次へ
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[部分編集] カービン もともとは馬上で使用する軽量なライフルの事。現在では室内等で使いやすい短くされたライフルをこう呼ぶ。ただし明確な定義はない。ライトガンカテゴリーのイーダ型の武装。ライフルとハンドガンがあるので選ぶ時は注意。 ガイア ヴァルハラのトップに君臨している(いた?)神姫マスター。専用シルエットのオーラ(?)により独特の雰囲気をかもし出している。その厨二病溢れる言動から色々とネタにされ、「大地さん」と親しまれて(?)いる。かっこいい専用戦闘BGMがあるが、イベント戦でしか聞けない。相方はストラーフMk.2のハーデス。説明では他人の大事なものを壊すことが好きなS(意訳)とあるが、むしろただの戦闘狂という方が近い。とりあえずチューブステージでCHIKARAはやめて下さい。 楽器 打撃武器の一種なのだが、このゲームのルールにおいて弱い要素が揃っているためどうにも使うのが難しい。ちなみに打撃に使用する割に何故か打楽器はない。もちろん楽器は本来武器ではないが、ゲーム等では武器として登場することがたまにある。なお、DLCで登場する武器パラボナソナー"マポノス"は楽器カテゴリの武器では楽器の形状はしておらず、純粋な兵器の形状である。補足:ベイビーラズは公式に打楽器を持っているが、ドラムセット本体はリアパーツ、スティックはダブルナイフ扱いであり、パーカッションは通常頭に付けているためか武装ですらない。 勝ち組 何かの要素で勝っているとされる者達の事。男性ならば身長・財力・ルックスなどだったりするが、女の子ばかりな神姫においては一部パーツの大きさで決まると言われる。バトマスでは一般的にイー姉、レーネ、アーク、紗羅檀、オールベルンあたりが勝ち組と呼ばれる。一方で負け組とされる神姫については記述を避けるが、おおむね指摘するとムキになるのが負け組だとい(ここから先は何かで汚れていて読めない)勝ち組側は大抵その事に自覚が無く、「大きくてもそんなにいいことないんだけどなぁ」といった発言が飛び出すことが多い。…ある奴と無い奴の溝は何よりも深く昏いのである。ちなみに、神姫の場合胸パーツは換装できるが、やっぱりそういったパーツは需要があるのか和津香のような悲劇を産むことになったりも…。 滑腔砲 戦車などの大砲で砲身内に砲弾を回転させる旋条がないもの。より高速で砲弾を発射したり、回転すると効果が落ちるタイプの砲弾を発射するのに使う。神姫では、フォートブラッグのリア装備、FB1.2mm滑腔砲がこれにあたる。神姫の装備では、なぜかバズーカ扱いである。対して、砲身内に施条を切って砲弾を回転させる砲をライフル砲(施条=ライフリング)と呼び、こちらは回転することで砲弾の飛行が安定するので、より命中率を求めるタイプの砲弾用の砲となる。 ガトリング ガトリング砲。100年以上前に発明された機関銃。多銃身がリング状に配置されていることが特徴で、複数の銃身を回転させる事で装填、発射、排莢のサイクルを自動で繰り返しつつ連続射撃を行うことを可能とした。手持ち式ガトリングは単銃身で連続射撃が可能かつ軽量の機関銃の登場で一気に廃れたが、同じ数の弾丸を発射した場合銃身が複数ある分だけ銃身へのストレスが減るため発射サイクルを上げても銃身寿命が長い、万一不発弾などの不具合が生じても滞りなく次弾を発射できる等の利点があり、現在では重量が大きいことより動作不良が問題になる航空機搭載機関砲や艦船のCIWSに採用されている。なお、初期は手動式だったが、現在は電動等が用いられる。ちょっと使いにくい武装だがRA「T・ARMS」を入手するとつい使っちゃうんだ。 ガブ/ガブ子 ガブリーヌの俗称の一つ。 ガブリーヌ パンドア製神姫、ヘルハウンド型ガブリーヌ。前作DL神姫でシナリオは第7号にて実装される。自分は地獄から来た、と主張するが、同期の蓮華には「地獄の駄犬」呼ばわりされていた。グラ姐未登場の本作においては、唯一の褐色肌神姫である。 金朋地獄 蓮華の中の人、金田朋子嬢の言動が、あまりにハチャメチャで聞いた者の腹筋を破壊する上に抜け出せなくなる中毒性を持つところから付けられたもの。既に固有魔法の域に達しているとも。バトマスのプレイ動画でも、蓮華が取り上げられると、もれなく金朋地獄のタグが付けられている。今から蓮華のシナリオが実装される日が心配楽しみである。←DLC第5号にて実装。予想通りの金朋地獄が堪能できましたw余談だが、本人のブログ名が「カネトモ地獄 早起きは三文の毒」であり、ある意味公認の言葉である。 キシマさん プロキシマの俗称の一つ。 キメラ キメラ装備とも。複数の動物の混ざった姿をした神話の合成獣キメラを語源とし、転じて神姫各々の純正装備以外の武装を一つでも装備した状態を指す。見た目の整合性やキャラクター性より、よりストレスなく嫁神姫を操作できることを重視したアセンブルスタイル。しかし実際アビリティの補完、戦闘スタイルの自由度確保のため、アクセサリーと武器については何がしか純正以外のものを装備しているプレイヤーがほとんどで、暗黙のうちにアクセサリーと武器に限っては何を装備していてもキメラではないと見なされている。また、固有RAを使用できる純正武装だけでコストを使い切ることはまずないので、空いている部位に追加の武装を施す「純正+α」のアセンブルもごく普通に行われる事である。対戦の際にはこのあたりについてどうするか確認しよう。ぶっちゃけ完全純正以外のアセンブルがアリかナシかで全く別のゲームになる。古くは神姫のゲームがバトロンのみだった時代からある単語で、性能重視で外見がすごいこと(全身ハリネズミのようにブースターがついているなど)になっている神姫が主にこう呼ばれた。キメラの名はそのような外見も関係していたのかもしれない。バトロンでは最終的に武装がまったく同じで素体だけ違う神姫ばかりという状態になったこともあり、「(性能的)個性がなくなる」という事実から「キメラ」を否定的に考えている層も少なくない。しかし武装神姫はもともと公式に組み替え遊びを是としている玩具であり、組み替えの自由がある。結局は「他所は他所、ウチはウチ」の精神が大切ということだろう。また、先の経緯からキメラという呼び方を蔑称として使う人、受け取る人も少なからず居るので空気を読む事も忘れずに。 キャッキャウフフ 一般的には「じゃれあう様子」をさし、神姫とイチャコラする意味で使われる。「キャッキャウフフ」と半角で記載することが通例である。 旧黒子 初代ストラーフの俗称の一つ。ストラーフMk.2と区別するための呼び名。 旧白子 初代アーンヴァルの俗称の一つ。アーンヴァルMk.2と区別するための呼び名。 牛丼/ぎゅうどん/ギュウドン/ギュウドン 戦乙女型アルトレーネの事。バトルロンドやバトルマスターズにおいても、ぎゅうどん会話ネタがついてきたため。 キュクノス ドレス・メカニカ製神姫、白鳥型キュクノス。鴉型アラストールと同じく、コナミが2011年にイベントと通販のみで発売した神姫で、武装部分はレジンキャストになっており、素体はMMS NAKEDを用いる。彼女の登場のために、ガレージキット版で白鳥・黒鳥と呼ばれていたオールベルンが剣士型にされたと勘違いされ、一部のファンからあらぬ恨みを買う羽目になっていたりする。(実際にはオールベルンが「剣士型」として製品化が発表されたワンダーフェスティバル後の飲み会で製作が決まったため、無関係と思われる。また、オールベルンガーネット・ジールベルンサファイアもほぼ同時に発表されており、そちらの影響とも考えられる)アラストールと同様に、武装セットのみがDLC第7号にて実装される。オールベルンにキュクノスのリアを組み合わせ、「白鳥型オールベルン」を再現した紳士も多いのではないだろうか?戦力面でも、オールベルンの純正装備にキュクノスのリアを組み合わせると空中移動系のアビリティが全て揃う(急上昇・急降下、空中ダッシュが追加)ので、悪い組み合わせではない。 強化ミミック ストーリー終盤とクリア後のMAPにてエンカウントするミミックの強化型。SPDとDEFの初期値がずば抜けており、他の部分の数値も素体中で高い部類である・・・が、このゲームではSPDの値が反映される上限がある。また出現の条件を考えると自神姫も十分に強くなっている為、あまりミミックと大差なく感じるかもしれない。ただし、ジャスティスやミミックを育てているときには、Love1だろうと、外に出ると強化ミミックが襲ってくるので、そこだけは注意されたし。 グラフィオス マジックマーケット製神姫、サソリ型グラフィオス。素体未登場だが武器(レサートロッドシステム等)だけ登場。AIは非常に好戦的な性格付けがなされており、「悪の組織の女幹部」や「魔王」などと称される性格の持ち主。ことバトルに関してはマスターに対しても高圧的にふるまうことも。イーアネイラ並の豊満ボディに、胸部装甲とサイハイソックス以外は紋様を描いただけの実質裸という抜群の露出度を誇り、美少女型が大多数を占める神姫達の中で他にイーアネイラ型、プロキシマ型くらいしか居ない美女型。加えて他にはガブリーヌ型しかいない褐色肌であるなど希少性要素のオンパレード。選択肢を広げる意味でも、バトマスにも登場して欲しかった。武装の殆どがリアに集中しているのが特徴。また武装を組み合わせてサソリ型ビーグルメカ「ウィリデ」に変形させることも可能。更に複数の神姫の武装を合体させるシステムに対応し、同時期に開発されたウェスペリオーと互いの武装を合体させることで、大型ドラゴン型メカ「ゼオ」を作り出せる。そのためフィギュアのプレイバリューは非常に高い。このロマン溢れる複数の神姫の武装を合体させるシステムを持つ神姫は、グラフィオス ウェスペリオーの「ゼオ」の他に寅型ティグリース 丑型ウィトゥルースの「真鬼王」 「ファストオーガ」とカブト型ランサメント クワガタ型エスパディアの「ヘラクレス」がいるが、残念ながらバトマスには一切登場しない。 クラブヴァルハラ メインストーリー中盤以降に登場する非公式バトルを行っている賭博場。名の由来は北欧神話において決戦のときに備え戦士達の魂を集める宮殿ヴァルハラ。勝てば相手の武装を手に入れ、負ければ武装を剥奪される。ここにしか出てこないマスターもいる。登場時点では非合法な場所のはずなのだが、ゲームセンターで見かける面々がホイホイ出入りしていたり、違法改造が横行している割に敵の戦闘能力に差異はないなどあまり緊張感はない。浄化後はそれに拍車がかかる。tipsにもあるが問題なのは現金による賭博と神姫の違法改造であり、ここでの神姫バトル自体は違法ではないため安心してほしい。一部マスターが、賭け金がどうのこうのと呟いていることがあるが、聞かなかったことにするのが大人の対応である。柴田君の武器がピコピコハンマーだけになっている。もうやめて、柴田君の使える武器はゼロよ! グループケーツー 武装神姫世界における神姫製造メーカーのひとつ。フブキのメーカー。長らくシンボルマークが不明だったが、フブキ弐型 ミズキ弐型のマーキングに、縦に並んだKKを図案化したものがあり、これがグループケーツーのシンボルマークと思われる。 クレイドル 神姫の充電に使われる充電器。主人公の部屋にはクレイドルが1個しか確認されていないため、34体以上の神姫をどうやって充電しているのやら…。主に人間でいう寝床のような形で利用するものらしい…が、アークのイベントではどう聞いても押し込んでいる。なお、同イベントの話を聞くと、どうやら一つのクレイドルを使い回している様子だが、さて…。コナミスタイルで通販グッズとして販売もされたりするが、こちらは無論神姫の充電機能は付いていない。代わりと言ってはなんだが、USBに差すとランプ部分が光る。…ただ、それだけである。 黒子 悪魔型ストラーフの俗称の一つ。今作ではストラーフMk.2も含む。 黒にー 悪魔型ストラーフMk.2の俗称の一つ。黒=ストラーフ にー=Mk.2(に)。間違っても黒いニーソックスの略ではないぞ。大体誇り高いストラーフがそんな装備など…、あー、ど、どうしてもというのなら、その…ゴニョゴニョ 黒星紅白 アフォンソファクトリー製のエストリルとジルリバーズの素体部分を手掛けたデザイナー。代表作はキノの旅やサモンナイトなど。エストリル・ジルリバーズ発表時に降臨した本人のコメントによるとペロリストらしい。 軽白子 天使コマンド型ウェルクストラの俗称の一つ。「軽」なのはライトアーマーシリーズのため。ちなみにヴァローナはこの法則からだと「軽黒子」だが、モチーフからか夢魔子と呼ばれることの方が多い。 ゲイルスケイグル(EX) アルトレーネ専用レールアクション。前作では当てにくいレールアクションの代名詞だったが、今作では威力共に大幅な改善をみられた。が、槍の向きが逆なのはアルトレーネ型のいつもの事だったりする。バトロンではちゃんとした向きで投げるのにどうしてこうなった。ちなみに名前は北欧神話に登場するワルキューレの一人の名前からで、「槍の戦」の意味。 ゲームセンター 娯楽施設。他の神姫オーナーたちと神姫バトルを行う場所。子供からお年寄りまでが利用しているが、神姫上級者も多く訪れるようで、普通の人はちょっと入りずらい雰囲気を醸し出しているような気がしないでもない。。ツガルによると主人公が的確に変人を選んで戦っているだけらしいが…あるいは単に主人公の周囲に濃い人が集まりやすいだけなのかもしれない。隣町にもゲーセンがあり、筐体からレイアウトまでまったく同じようだ。全国展開なのだろうか。ちなみに、画面を見るかぎりレースゲームらしきものが見え、他にも紗羅檀のシナリオでリズムゲーム(「神姫が乗って足で遊べる」ということから、恐らくbeatmaniaIIDXだと思われる)が置いてある事が分かっている。 ケモテック 武装神姫世界における神姫製造メーカーのひとつで、ハウリン・マオチャオなどのメーカー。名前通り主に動物を題材にした神姫を取り扱っており、会社のシンボルマークも動物の顔を図案化したもの、と徹底している。神姫デザイナーBLADEのデザイン神姫はほぼここ。 誤爆は神姫名うp スレで誤爆してしまったときは、自分の神姫達につけた名前をうpしなければならないというバトルマスターズ神姫スレの鉄の掟。元々はおもちゃ板の武装神姫スレの鉄の掟「誤爆は神姫(の写真)うp」から。 コナ☆スタ コナミの通販サイト「コナミスタイル」の事。表記の「☆」は略称の語感が某アニメに似るため。武装神姫の限定商品などを取り扱っていたりする。特に地方在住の武装紳士にとって、一般流通しないリペイント版神姫を入手するほぼ唯一の手段でもある。クリアファイル等の「コナスタ限定の」オマケがついてくることも多い。価格は基本的に定価販売(ごくたまにセールをするが、ほぼ瞬殺される)。値段は気にしないが確実に欲しいという場合、ここで予約するのも手だろう。 固有RA 各神姫に特定の武装を施した状態でのみ使用可能になる専用RA、および特定ライバルが使用してくる特殊RAのこと。神姫専用RAにはランク3~5武装を使う通常版(1体のみ例外)と、ランク6~7武装を使うEX版がある。基本的に数を撃ってこその射撃系RAはスキあらば発射できる通常版のほうが使い勝手が良いが武装が貧弱になるという問題があり、EX版はライドマックス状態でしか使えないため出したいときほど使えない。武装も含めて性能はピンキリ。だがやはり、トドメはこれで締めたい。 コンマイ コナミの蔑称あるいは愛称。“KONAMI”をローマ字入力する際、"KONMAI”と打ってしまうことが少なくないことから。またあるアーケードゲームでコナミ自らが誤植してしまったこともある。
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そこは。 意外なほどに広い空間だった。 「……」 部屋の中央には、黒衣の神姫。 忍者装束をモチーフにした装甲衣と背後に広がる漆黒の翼。 「……」 白脱した虚無を思わせる切りそろえられた銀髪。 そして。 「……ようこそ、5年越しの挑戦者達よ」 静かに降り積もる深雪を想起させる涼やかな声。 「土方真紀の武装神姫、フブキ。……だな?」 「ええ」 祐一の問に、静かに頷きフブキは背中の翼を広げた。 「私が、最後の『敵』です」 「……なるほど」 最早、祐一には全てが明白だった。 直に彼女と出会うまでは保留にしておいた問いに、最終的な解答が出る。 「アイゼン」 「……ん」 行くぞ。と、言うまでもない。 祐一のように、この状況を完全に理解した訳ではないだろうが、それでも彼女は彼の判断に疑問を差し挟みはしなかった。 「……」 無言のまま、アイゼンは無骨なザバーカを一歩前へと踏み出す。 「何も聞かないのですね?」 「負けるまで、答える気無いだろ?」 ふふふ。と幽かに笑い、フブキも同じく一歩踏み出す。 「話が早くて助かります」 「……」 フブキと、アイゼンとが、ほぼ同時にそれぞれの武器を構えた。 奇しくも双方、双刀。 アイゼンは何時ものアングルブレードに、大小組み合わせたフルストゥを副腕に持ち、近接戦に備えている。 対するフブキも刀型の剣を両手に一つずつ持ち、明らかに接近戦を意識していた。 「開始の合図は要るか?」 冗談めかして投げかけた祐一の問に、しかしフブキは神妙に頷く。 「お願いしましょう。……それが、貴方がたの流儀でしょうから……」 「……?」 アイゼンの表情に、一瞬だけ戸惑いのような物が生まれ、すぐにそれを押し殺す。 元より、余分な考え事をしながら戦える相手ではない。 「……それじゃあいくぞ。……ゲットレディ」 僅かに屈み、突進に備えるアイゼンとフブキ。 「―――GO!!」 そして、最後の戦いが始まった。 鋼の心 ~Eisen Herz~ 第35話:ネメシス 「―――砕!!」 先手は、当然のようにフブキ。 反応速度も、敏捷性も、移動力も。 凡そ『速さ』と区分できるあらゆる性能が、敵対するアイゼンの比ではない。 両腕を万歳するように掲げ、大上段から二本の刀を同時に振り下ろす。 ≪system“Accelerator”starting up≫ 対するアイゼンは、初手からアクセラレータ。 フランカーから移植された思考加速装置を起動、フブキに追従する反応速度を得る。 AIにかかる負担から、戦闘時間は大幅に短くなるが、コレ無しでは戦闘以前の段階で勝負にならない。 「……っ!!」 性能差の割には必要とする加速度が低い為にアイゼンを苛む頭痛も鈍いが、フブキに対しては、ある程度の事前情報があり、それなりに行動を予測できる為、この程度でなんとか対応範囲に持ち込める。 辛うじて副腕のナイフで双刀を外側に弾き、素体腕で持ったブレードを左右から挟みこむように振るう。 「…疾ッ」 即座にフブキがアイゼンの胸を蹴って離脱。 悪魔型のブレードは空を切る。 直前。 「……行けぇ!!」 そのまま、ブレードが前方に投擲された。 「ほぅ?」 軽く驚きながらも、フブキは双刀で投擲された2本のブレードを弾き飛ばした。 直後。 「む?」 更に、重なるように投擲された刃が4本。 アイゼンが、分解されたフルストゥを両の腕と副腕とで、すかさず射出したのだ。 「初手から武器を全て捨てるか!?」 だが、それぐらい意表をついた攻撃で無ければ、最強の神姫相手に戦いの主導権は握れない。 フブキは一瞬。 ほんの僅かな間だけ判断に迷う。 羽手裏剣での迎撃は、投影面積の薄い刃を打ち落とすには不向き。 かといって避けようにも、アイゼンを蹴り飛ばした直後で宙に浮いている状態では緊急回避は出来ない。 刀で弾こうにも、僅かずつタイミングをずらして投擲された刃は、まるで列車のように同じ軌道を時間差をつけて飛来するため、全弾弾く事は不可能。 ならば。 「防ぐまで!!」 体の前で翼を閉じて構成する分子機械を再配置。 堅牢な殻を形成しそれを盾とする。 ダダダダ、と刃が翼の表面に突き刺さるが、分子機械で多層構造を形成された防壁は貫通をゆるさない。 この時点でようやく、アイゼンを蹴って飛びのいた滞空から着地するフブキ。 刺さったナイフを振り落とす為に勢いよく翼を広げ、開けた視界に。 「……ふっ」 チーグルを振りかぶったアイゼンが居た。 「―――ッ!?」 悪魔型のモチーフに恥じない暴力的な威力の腕(カイナ)が、寸での所で身をかわしたフブキを掠め、空を切る。 極僅かに、爪の先が引っかかった胸部装甲が、しかしその圧倒的な腕力ゆえに大きく裂けた。 (……さすがストラーフ。パワーならば最新鋭の重量級神姫にも引けを取りませんね) 振り抜いたチーグルの勢いは止まらず、アイゼンは大きく姿勢を崩す。 フブキにとっては反撃を行う絶好のチャンスだ。 しかし。 「罠なんでしょう?」 フブキはそれに喰いつくほど浅はかではなかった。 「……ッ」 更に身を引いて間合いを広げたフブキの眼前を、ザバーカによる後ろ回し蹴りが擦過する。 またもやかすり傷を負うが、それを意に介さず、フブキは間合いを広げて仕切り直しを図った。 その選択が、祐一とアイゼンにとっては最も手痛い一手であると、フブキは確かに理解していたのだ。 ◆ 武装神姫を大雑把に両極化すれば、重量級の『パワー型』と軽量級の『高速戦闘型』に分類される。 大きく、重い方がフレームの強度を上げる事ができ、それに伴ってパワーも向上する。 更には自重そのものが、打撃の威力と密接に関わる質量を上げる為、攻撃力は更に向上。 結論から言えば、神姫の重量と腕力はほぼ正比例の関係にあるのだ。 即ち。重いと言う事は強いと言う事だ。 即ちこれこそが重量級神姫のコンセプトに他ならない。 では。 対する軽量級神姫のメリットは何処にあるのだろう? 当然の如く予測されうる答えは『速さ』だろう。 だがしかし。 それでは誤りではない、だけで。正解でもない。 何故ならば、時として『重い方が速い』事もあるからだ。 神姫を例に挙げるなら、アーンヴァルとエウクランテが判りやすい例だろう。 共に飛行タイプの軽量級神姫に分類されるが、実際にはアーンヴァルの方が全備重量はかなり重い。 しかし。最大速度はアーンヴァルの方が圧倒的に速いのだ。 理屈から言えば、エウクランテではアーンヴァルに追いつけない。 ……が、実際の戦場ではむしろエウクランテの方が速さを武器とするのである。 何故か? その答えは『加速力』にある。 仮にエウクランテの最大速度を30、アーンヴァルを50として考えてみよう。 共に最大速度を出している状況では、エウクランテはアーンヴァルに及ばない。 だが、静止状態からの加速勝負なら話は変わる。 アーンヴァルが2秒ごとに10ずつ速度を上げるとしよう。 その場合、最大速度である50に達するのは10秒後。 しかし、エウクランテが10速度を上げるのに要する時間が1秒なら、最大速度である30に達するのは3秒後。 同時にスタートしたのならば、3秒後のアーンヴァルの速度は僅か15、エウクランテの半分に過ぎないのだ。 そして、乱戦中に10秒もの間直進、即ち最大加速をする機会はまず無い。 攻撃のため、回避のため、位置取りのため。 戦闘機動とは急緩が複雑に絡み合う物だからだ。 故に。 軽量級神姫の強みとは、即ち加速力。 如何に短い時間でトップスピードに乗り、そして減速出来るかが性能の優劣を分ける。 そして、それを行う為に最も邪魔になる物が『重さ』なのだ。 逆説的に言えば。『軽量級』神姫とは、速さを求めたが故に『軽く』ならざるを得なかった神姫とも言える。 それを知っている神姫とそのオーナーは、その為に、如何に自重を削るかを命題とする。 無論、装甲は極限まで切り詰める。 武器も必要な分だけあればいい。 速度を得る為の推進器も暴論を言えば、無いほうが良い位なのだ。 そして、そのバランスを如何に取るかがオーナーの見せ所とも言える。 装甲が過剰になれば、速度は目に見えて落ちるし、かと言って、無装甲では爆風や破片と言った避わしようの無い攻撃で致命傷を負ってしまう。 武器も過剰な装備は重さに直結するが、足りなければ敵を倒しきれない。 速度を得る為の推進器も、神姫素体に頼るのか、外付けの推進器を装備するのかで戦闘スタイルそのものが大幅に変わる。 斯様に軽量級神姫の扱いは難しい。 武器、装甲、速度。 このバランスを如何に取るか、最終的な結論は恐らく永遠に出ないだろう。 故に、軽量級神姫のオーナーたちは自らの最適解を目指し邁進する。 各々の解答を以って戦いに挑みながら……。 ◆ そして、原初の軽量級神姫のオーナーであった土方真紀は。 その解答をこう出した。 ◆ 「……自己修復……か。冗談みたいだな……」 「……ん」 チーグルとザバーカで付けたボディの傷が、二人の見ている前でフィルムの逆回しのように消えてゆく。 四本ものナイフが突き刺さった翼も、だ。 「私の装備は全てが分子機械(モレキュラーマシン)です」 彼女の装備、即ち。翼と装甲衣、そして双刀。 「何れも必要に応じて組み替えることで、多様な性質を帯び私の機能を補佐します」 鋭く高質化する事で刃に。 柔軟に風を孕む事で翼に。 幾重にも積層される事で鎧に。 言ってしまえば、フブキの装備は『分子機械のみ』だとも言える。 それ一つが多様な役目を果たすが故に。 「……一応言っておきますが、先ほどの攻撃も無意味ではありませんよ。私の装備を構成する12万の分子機械の内、数百は機能停止しましたから……」 「一応ストラーフの打撃は、掠めるだけでも軽量級神姫なら数発で戦闘不能になる威力なんだけどね……」 だが、フブキの外部装甲は修復が効く。 つまり小手先の小技や、アーマーから破壊して爆風でトドメを刺すような搦め手はほぼ無意味と言う事だ。 「……やっぱり、体の正中線をぶん殴るか、キャノンを直撃させるしかないと思う」 「だな」 「……もちろん、私もそれを警戒しているのですけどね……」 言ってフブキは軽やかに一歩飛びのく。 広げた間合いは、アイゼンにとっては格闘装備の使えない中距離以遠。 元より単純に撃った滑空砲が当たる相手では無い。 ならば、使用するべきは……。 「アイゼン!!」 「……ん」 抜き打ち気味に構えたアサルトライフルで発砲!! フルオートで弾幕を張り、半呼吸ほど遅らせて左右に滑空砲で榴弾をばら撒いて置く。 ライフルをかわす為に左右に避けたのならば、榴弾の爆風で巻き込める。 そうでなければ蜂の巣だ。 ……並みの神姫ならば。 「アイゼン、上だ!!」 「……ッ!!」 瞬時に跳び上がったフブキが、空中で翼を使って方向転換、即、加速!! アイゼンの頭上をキックで狙う。 「……このっ」 合わせる様にチーグルを突き出し、カウンターを狙うが、フブキは全身のバネと翼を使って衝撃を殺し、鋼鉄の拳の上に着地。 「ふっ」 振り抜かれ、伸びきった腕が弛緩する一瞬にあわせ、引き倒すように後方へと蹴る。 「……え?」 爪先から、鋭利な爪が伸び、チーグルを捕らえていた。 伸ばした腕を更に引っ張られたアイゼンが、重心を崩してつんのめる。 驚愕で見開かれた眼前に。 「ごめんなさい」 フブキの足爪が突き刺さった。 「―――アイゼンッ!!」 頭の奥のAIを守る為に、殊更堅牢に作られている頭蓋を引っ掻く音がした。 アイゼンの顔面を削るように振り抜かれたつま先には、湾曲した爪が三本。 その一つが、彼女の左目の位置を抉っていた。 「……ッ、く……」 アイゼンは左目を押さえ、よろめきながらもチーグルを振り回しフブキを追い払うが、しかし。 「アイゼン!! 大丈夫か!?」 「……問題ない、大丈夫。……左目取れただけ」 「だけ、じゃねぇ!!」 神姫センターのバトルなら、敗北をジャッジされるダメージだ。 だが。 「まだ敵は見えてるし、武器もある。……全然余裕」 「……っ」 祐一は一瞬判断に迷った。 元々、彼にはここまでするつもりは無い。 フブキを倒す為に、これほどの代価を払う必要性を、実の所まるで感じていない。 (試合ならコレで負けだし、普通に考えれば戦闘を止めるべきだけど……) 後続にはカトレアもいれば、他の神姫たちもこちらに向かっているかもしれない。 ここで、無理をしてアイゼンだけで倒す必要は、必ずしも無い。 だが……。 「……まだ大丈夫。……やらせて」 アイゼンには、撤退の意思は微塵も無かった。 ◆ 神姫バトルを始めてから5年。 四肢を破壊されるような大ダメージが無かった訳ではない。 だが、神姫にとって手足はある意味では『装備』だ。 交換も容易だし、必要に応じてチーグルなどを直に接続する場合もある。 だが。 頭部は違う。 それは不可分の『本体』。 破壊されたら、『死ぬ』部分なのだ。 そこに、これほどのダメージを負った事は一度も無かった。 当然だ。 フブキは、今までに戦ったどの神姫にも増して強い。 だから。 ……だからこそ。 ◆ 「……ねぇマスター。今、どんな気分?」 「……」 アイゼンの問に答えを探す。 だが、早鐘のような鼓動と焦燥に思考は乱れ、まるで纏まらない。 「……ね、マスター」 「心臓バクバク言っててそれ所じゃないよ」 「……ん。じつは私も」 こちらの会話を待つ心算なのか、動こうとしないフブキを見据えたままのアイゼンが背中越しに語る。 「……なんか。勝てるって確信が無いし、負けちゃうかも、って凄くドキドキしてる」 私に心臓は無いけど。と、続けた後。 「多分、CSCか何処か。……凄いオーバーワークでチリチリするの。 ……マスターもきっと同じだよね?」 「ああ」 深く考えずに、その余裕も取り戻せないままうなずく祐一。 「……でもさ、それ。マスターはよく知ってる感覚だよね?」 「え?」 「……好きでしょ?」 「……あ」 思い当たる。 「初めて敵と戦うとき。 凄く強い敵相手にピンチになった時。 絶体絶命で、でも。 ……まだ、勝ち目が残ってて、諦めきれない時……。 いつも『こう』だよね?」 RPGで。 シューティングで。 対戦格闘で。 ……武装神姫で。 遊んだ後に、一番楽しいと思い返すのは、何時だってギリギリの極限の瞬間を、だ。 「……なら」 「今が一番、『楽しい』状況……。だね」 「……ん」 そうだ。 まだ、負けた訳じゃない。 形勢は言うまでも無く不利だし、勝ち目は薄いけど。 皆無ではない。 「……一応聞いておくけど、まだ戦えるよね?」 「……当然」 言って、両の副腕を握りなおすアイゼン。 「よし。……ならもう一度だ」 「……ん」 答え、祐一のストラーフは微かに身を落とし、構えなおす。 「頼むぞ、アイゼン!!」 「……指揮は任せた!!」 答え、応え。 アイゼンが飛び出した。 ◆ (なるほど。……コレが本当の目的ですか) 気付いた彼女が密かに笑う。 (本当に、回りくどくて不器用なやり方です) 彼女を支配する感情は紛れも無くそれ。 (ですが、それでこそ私のマスターです) 主と共にあると感じた神姫が得る感情は、歓喜に他ならない。 ◆ アイゼンの突進に、フブキは全力を以って応じた。 左右に大きく腕を広げ、刀と翼を触れ合わせる。 分子機械を翼から刀に大幅に移し、武装を強化。 質量を増した分威力が上がり、重くなった分遅くなった剣速を翼で弾き出す事で補い、更に上乗せする。 「……行きます。―――奥儀『双餓狼』ッ!!」 暴風すら伴いながら、アイゼンを迎撃するのは左右からの同時斬撃。 対するアイゼンは左右のチーグルを刃に合わせる。 しかし、左右は逆に。 眼前で交差した副腕は、その距離を余力とし、圧倒的な一撃を柔らかく受け止める。 もちろん、勢いを完全には殺しきれない。 だが、その一撃がアイゼンに到達するのがほんの一秒ほど遅らせる事には成功した。 しかし、たったの一秒だ。 それはたった一秒敗北を後伸ばしにするだけの行為。 両腕を緩衝材に使い、塞がれてる以上、他に打つ手は無い……。 ……普通の神姫なら。 「けど。私の腕は、四本あるっ!!」 完全にフリーになっている素体の両腕。 それが届くのに必要な時間は一秒。 たったの一秒だった。 そして。 その一秒で充分だった。 装甲衣の襟首を掴んで全力で引き寄せる。 剣の間合いを越えるどころか、拳の間合いの遥かに内側まで。 「……つかまえた!!」 「―――なっ!?」 引き寄せられた顔面に、アイゼンもまた顔面をぶつけ、それを以って打撃とした。 「へ、ヘッドバット!?」 さしものフブキも、予測していなかった攻撃に面食らう。 素体の運動性ではフブキに分があるが、頑強さならストラーフの方が上。 更に、開いた右腕で追撃の拳。 「捕まえての殴り合いなら、ストラーフに敵う神姫は居ない!! 例えフブキでも、だ!!」 如何に破格の性能を誇ろうが、フブキは軽量級神姫だ。 打撃の速度を上げる事で、攻撃の威力を増すことは出来ても、純粋な腕力ではストラーフに及ばない。 足を止めた超至近距離での殴り合いならば、軽量級の神姫は重量級の神姫に絶対に勝てない。 「させません!!」 組合から離脱しなければ敗北すると判ったのだろう。 フブキは狙いを襟元を掴んでいる左腕に絞った。 だが、しかし。アイゼンにも逃すつもりは毛頭無い!! 「捕まえろ、アイゼン!!」 「……ん!!」 巻きつくように背中に回されるチーグル。 構成する分子機械の大部分を刀に委譲してしまった翼に、それを防ぐだけの力は無い。 更に、素体の両腕で抱きしめるように捕縛。 そのまま全力で締め上げる。 「べッ……、ベアバック……!?」 ギリギリと、締め上げられてゆくフレームが音を立てる。 「締め落せ!!」 「……っ!!」 こうなっては、最早脱出は不能。 アイゼンの勝ちが確定したようにも見えた瞬間。 「―――空蝉!!」 腕から掻き消えるような感触と共に、フブキの身体が理不尽な動きで戒めから離脱した。 一瞬で宙に逃れ、後ろに跳び退く忍者型神姫。 「……忍法?」 「装甲衣の分子機械を膨張させて脱ぎ捨てたのですよ。……脱ぎ捨ててしまう為、一度きりしか使えない手段ですが、もう二度と捕まらなければ良いだけの事」 確かに。装甲衣を脱ぎ捨てたフブキには、最早それを再構築し直すだけの分子機械が無い。 装甲衣だけでは不足だったのだろう。刀も翼も装甲衣と纏めて脱ぎ捨てた為、最早素体しか残っていない。 12万もの分子機械群は、フブキの身体を離れて無力化された。 もちろん再掌握する事で復帰は出来るが、1分ほど時間がかかる。 そして、それが戦闘中に不可能であることは明白だった。 ◆ 「……取りあえず、装備は奪えた、と。……これでようやく五分五分、かな?」 「……だね」 全ての武装を失ったフブキには、最早アイゼンに捕まる危険のある近接戦以外の選択肢が無い。 一方でアイゼンも、遠距離戦になってしまえば射撃で命中は見込めないため手詰まり。 故に、双方格闘戦以外の選択はありえない。 武装を全て失ったフブキに対し、アイゼンは未だにチーグルを始めとする機械化四肢を持っているが、素体の性能自体は数段下。 更にフブキの速度に対応する為にアクセラレータでAIに負荷を掛けているので、実際の戦闘時間は後数分。 加えて先ほど負った左眼の損傷を考慮すれば、実際には遥かに不利だ。 しかし、その差は、確実に戦闘開始時よりも狭まっていた。 そして何より。 (ペースを掴まれたのが厄介ですね……) フブキはそう思考し、目の前の相手の戦績を思い出す。 アイゼン。 そう名づけられたストラーフの真価は、実の所、よく言われるような再戦時の勝率ではない。 一言で言ってしまえば、彼女の恐ろしさはペースを掴む事にある。 相手の得意技を無効化し、頼りとする防御や回避を越えて一撃を与えてくる戦闘スタイル。 それがどれほど困惑を生むかは、実際に相対した神姫とオーナーでなければ分らないだろう。 強い神姫には例外なく得意とする戦術、戦法がある。 何も考えず、ただ強い武器を装備するだけでは精々、初心者相手に圧勝できる程度だ。 中級者には打ち破られ、上級者には片手間で粉砕される。 故に、強い神姫とは確固たる戦術、戦法を見出した神姫であり、それに特化し、予測されうる弱点をカバー出来た者こそが強者として名を馳せるのだ。 だから。 それを磨けば磨くほどに、打ち破られた時の衝撃は大きい。 そして、アイゼンはそれをする数少ない神姫だった。 (すでにこちらの武器である素早さと分子機械を破られました) アクセラレータという強引な手段を用いねばならなかったのは、もはやハンディキャップと言っても過言ではない反応速度の遅さゆえにだろう。 だが、経緯は如何あれ既にこちらの動きは概ね見切られている。 最早素早さだけで翻弄することは不可能だろう。 (分子機械もそれごと握り潰すと言う強引な方法で突破されましたし……) 分子機械の暴走を想定した緊急パージコマンド『空蝉』が無ければ、アレでフブキの敗北は確定だった。 フブキとストラーフの埋めようの無い腕力の差。 それを前面に押し出した文句の付けようの無い攻略法。 咄嗟に空蝉で逃れてしまったが、本来空蝉は戦闘用の動作ではない。 仕様として用意されてはいたが、それを勝利する戦術に組み込んでいた訳ではないのだ。 つまり。実を言えば、あのまま破壊されても良かったと思う位見事に、祐一とアイゼンのペアは『フブキ』という神姫を攻略していたのだ。 そして何より。 (切り札を卑怯とも言える手段で返されたのに、プラス要素だけを認識して即座に戦意を取り戻す切り替えの早さ) 神姫にとって最高のパートナーとなる素養を充分に持っているオーナー。 そして、それに応える神姫というペア。 真紀が邂逅を望み、果たせなかった相手。 それが今、目の前に居る。 「ふふふ」 それが。 たまらなく嬉しかった…。 ◆ 「お見事ですね、戦術の堅実さ、思考の柔軟性、装備の選択。……何れを取っても申し分ありません」 「あまり万人向けじゃない気もするけどね」 「……ん」 コクコクと頷くアイゼン。 「無難に、スタンダードな、などと言うコンセプトでは私には勝てませんよ」 射撃も格闘もこなし、回避もガードも選択しうる。 それではフブキと同じコンセプトだ。 その上で、現行の技術には無い分子機械を擁するフブキに一段劣る技術の同コンセプトでは勝てる筈も無い。 「……だから、その選択は正解です。私は分子機械と言うチートで成立した最強の神姫なのですから『万人向け』のコンセプトでは話にならない」 自らをズルであると認めた上でフブキは問う。 「……しかし、貴方がたはその最強を突破しました」 フブキを最強たらしめていた分子機械を打ち破った。 「しかし、その代価は貴方がたにも軽くはないでしょう?」 アイゼンのダメージは大きく、AIにもアクセラレータの負荷が重く圧し掛かっている筈だ。 「一応問いますが、ここで引く気は無いのですね?」 もちろん。 フブキにはその答えが分っていた。 「当然だ。……折角、最強の神姫が相手なんだ。……最後の最後まで楽しませてもらう」 「……ん」 こくりと、頷いてそれを肯定するアイゼン。 「……。……ふふ」 軽く、全身から力を抜くフブキ。 「……いいでしょう。かかってきなさい、悪魔型!!」 「……往く」 こうして、三度目の仕切り直しから。 こんどこそ最後の勝負が始まった。 ◆ 打撃。 打撃。 打撃。 双方、拳を中心に打撃の応酬を繰り広げるが、そのスタイルは別物だった。 牽制打を連続で繰り出し、渾身の一撃を打ち込む隙を作り出そうとするフブキに対し。アイゼンは大振りながらも必殺の一撃を確実に繰り出してゆく豪放なスタイルで応じる。 蹴りはどちらも存在だけ匂わせ、実打は撃たない。 格闘技において、蹴りは威力以上にデメリットが大きい。 振り上げた脚を捕らえられれば、その時点でほぼ敗北は必至。 脱する為に必要な実力差より、蹴りを使わずに相手を倒す方が力量が要らないのだ。 そして、双方にそこまでの実力差は無い。 素体と武装状態とは言え、確かに性能ではフブキが勝る。 だが、しかし。 5年と言う歳月を待機して待っていたフブキと違い、アイゼンには1週と置かずに繰り返してきた戦闘経験がある。 間合いの取り方、外し方。 打撃の使い分け。 そして、打撃以外の投げや掴みと言う選択肢の存在。 この場の誰もが気付かなかったが、それは実の所、武術家と猛獣の戦いだ。 基本性能を武器とする猛獣に対し、技で応じる武術家。 それは、アイゼンとフブキの戦いと同じ傾向を持っていた。 そして、唐突にアイゼンが打撃を変える。 今までの重い一撃から、フェイントも同然の軽い一打。 しかし、予備動作なしで繰り出されたそれは、確かにフブキの身体を捉え、一瞬浮かせる。 そこに。 今度こそ必殺の意思を込めた一撃が打ち込まれた!! 「…!!」 フブキの反応は速い。 撃ち込まれた機械腕の右ストレートに身体を絡み付かせ、そのまま一気に腕を奪いに行く!! ダメージは決して軽くないが、彼女の反応速度は寸での所でその打撃を察知し、身を引いて威力を殺している。 フェイントにかかって居なければ無傷で反撃できただろうが、それでもこの一撃で決めるつもりだったアイゼンの意図は外せた。 ならばこれで詰み。 身体全部を使ってチーグルの右肘に加重をかける。 「……このっ!!」 アイゼンが左拳でわき腹を狙うが、それより早く、フブキの膝がチーグルの肘をへし折った。 「……っ!!」 ダメージに怯んだ一撃ではフブキを吹き飛ばすのが関の山。 致命打には程遠く。 しかし、アイゼンは迷わず追撃を掛ける。 「……行け、アイゼンッ!!」 着地の硬直で避けられないフブキに、アイゼンは片腕を失ったチーグルとザバーカをパージ。 その勢いを加速に利用し渾身の右ストレートを放つ。 「……これで―――」 それが当たる直前。 フブキが消えた。 「―――!?」 知覚が追いつかない。 拳をかわしたフブキが、姿勢を崩したアイゼンに密着するように両手を重ね。 「―――破」 発勁。 横合いから放たれた衝撃に、自分の受けた技を認識する事も出来ず、アイゼンは吹き飛ばされた。 これが決着。 戦闘開始から15分ジャスト。 敗因は、アクセラレータの時間切れだった。 第36話:伏せられた真実?につづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る フブキ付き黒い翼の発売でようやくウチの(実質)ラスボスが日の目を見ました。 これの発売予告以前からフブキ+黒い翼でイメージしていたので嬉しい事、嬉しい事。 本編の方も、書き溜めてあるのでココから先は更新早めでいけると思います。 宜しければ、後もう少しだけお付き合い下さい。 と言いつつポケモンとかモンハンとか鉄の咆哮とか……。 もうすぐルーンファクトリー3出るし、世界樹Ⅲも発表だぁ!! 来年もきっとゲームが楽しい。 ALCでした~。 -
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「――――ッ!!」 今度こそ飛鳥を捉えたかと思ったが、またしても手応えは無かった。 私の目の前にあるのは、外皮がコクリートが深々と抉り取られ、内部の鉄筋が露出している電柱だけだ。 それに此方の切先が命中する寸前に視界が白煙によって遮られ、現在もその煙は晴れずに、しかもレーダーが妨害されて電子的な索敵が行えなくなっている。恐らくスモーク弾とチャフを併用してバラ撒きつつ離脱したのだろう。 「子供だましを……」 急速上昇して効果範囲から離脱し、再度レーダーで飛鳥の機影を探す。陸戦ならまだしも、3次元空間を比較的自由に動ける空戦でスモークを焚いた所で一種の目くらまし程度にしかならないのは明白だ。 「……ちっ」 だがレーダーでは中々相手の機影を捉えきれない。恐らくはその運動性を生かして住宅の敷地内などを縫うように低空飛行しているのだろう。 しかし飛鳥型は最大速度では此方に大きく劣る上に、そのような飛行をしていては、この短時間に此方との距離を大きく取る事は出来まい。それに最初の逃走方向から大雑把な目的方向は予測できる。 「一瞬を見逃さずに……」 システムメモリの大半を目視を中心とする索敵に割り振り、鋭く目を配らせる。 ジリジリと時間だけが経過し焦りが募るが、このまま諦めてしまうわけには絶対にいかない。あんな破廉恥な物が私の手の届かない所に存在してしまうという事自体が大問題だ。更にもしもインターネット等に一度流出してしまったならばその回収・隠滅は不可能になり、私の人生は汚名に満たされた一生になってしまうだろう。 いや、私自身だけならまだしも、アキラまで汚名を被る羽目になったなら……私は…… 「――ヤツを絶対に、逃がしてたまるかッ」 一刻も早くヤツを発見する為に焦る怒りをねじ伏せ、ギリ、と唇を強く噛み締める。アドレナリンからの影響なのか、それとも屈辱からなのか、口の中に苦い味が広がり私を一層不快にさせる。 行幸と言うべきだろう。その時、民家の軒下を潜るように疾走していく飛鳥の姿が、私の目に飛び込んできた。 だが次の瞬間、ヤツの影はとある家屋に吸い込まれるようにして消えてしまった。そこは1区画まるごと1つの家になっているらしい、複数の平屋式日本家屋と多くの深緑が広がる、広大な邸宅だ。 そして上空で監視する事、数分。ヤツの姿は、何処からも出てこない。 「……つまり、あそこが本宅か」 ニヤリと、口端が浮き上がるのがわかる。 「――――フ、フフフフフフフフ」 ゆっくりとした動作で、先程磨耗したパイルバンカーに装填し、体制を整える。コキコキと指先が鳴り、アドレナリンが沸騰してくる。 「ブラッディィィ……ブレイクッ!!!!!」 飛鳥が消えた家屋の直上から、瓦を吹き飛ばし、木材を圧し折り、板を粉砕し、100万ボルトの稲妻のように突き抜ける! 「出て来い!…………跡形も残さず――破壊してあげるから」 もうすぐあの飛鳥を粉砕できるかと思うと、私の全身を禁断の果実を食したかのような高揚感が、ゾクゾクと駆け抜ける。 バラバラと粉砕された木材が散乱し煙が舞い上がる中、私はヤツの姿を追い求める。 「あら……。これはこれは、ごきげんよう。招かれざるお客様」 「ッ!?」 後ろからの突然の声に、反射的に振り向く。だが其処に居たのは飛鳥型の姿ではなく、こんな状況でありながら余裕を湛えた微笑を浮かべる、和装をした長い黒髪を持つ少女の姿だった。 ~ネメシスの憂鬱・ファイルⅩⅢ~ 「嗚呼これは失礼を。招かれざるお客様に対しても礼儀を尽くしませんと。 わたくしの名は『黒姫 鈴乃』。以後お見知り置きを」 そう一方的に名乗ると、優雅な動きで一礼する少女。 「しかしあいにくと、貴方には招待状は出してございませんの。 今なら何もなかったことにして差し上げますゆえ、お引取りを願えますかしら?」 微笑を浮かべたまま、氷のような瞳で見つめてくる少女。ただ佇んでいるだけなのに、その蒼い瞳からは凄まじい威圧感を感じる。 「――そんな物は関係ない。 私はただ此処に逃げ込んだ飛鳥型神姫の持つ、マイクロチップとデータを引き渡して欲しいだけだ」 だが……此処で怯む訳にはいかない。 「あら、そんな小鳥はここには居ませんわ。それとも此処に逃げ込んだという、確かな証拠でもありまして?」 「ずっと上空で監視していた。それにレーダーのログもある。これでは不足か?」 「えぇ、不足ですわね。 ログと言っても貴方の頭の中にある情報でしょう。貴方ご自身で改竄されてないとも限りませんからね。いきなり天井を突き破っておいでになられるような無粋な方など、とても信用出来ませんわ」 その飄々とした喋りに、私は不快感で一杯になる。だがその彼女の話し方は、私により以上の確信を抱かせる。この話の展開の仕方……いや、この話の逸らせ方はあの飛鳥と酷似している。 「――――埒が開かないようだ。此方は此処しか情報が無いし、貴方には真実を語ってくれる気は無いようだ」 「えぇ、そうですわね。それで、貴方はどうなさるおつもり?」 「……ならば、力ずくで探させて貰う!!!」 まずは邪魔な彼女を排除する為、翼下のハードポイントにセットされたスタングレネードをまとめて発射する。直撃すればスタンガンと同じように高圧電流が駆け抜け、たちどころに行動の自由を奪うだろう。 「――フ」 だが彼女は逃げる動き1つしないどころか、不適な笑みさえ浮かべながらその場に立っている。 「なにっ!?」 その理由はすぐに判明した。飛翔するグレネード弾が彼女に命中する寸前で全て爆発してしまったのだ。 そして次の瞬間には、側面方向から私へ向けて複数の銃弾が襲い掛かってくる。 「しまっ!?」 ギリギリの所で滑るように回避マニューバを行い、殆どの弾丸は回避したものの、1発が『レネット』の装甲に当たって1次装甲を突き破られてしまった。 「お嬢様には、指一本触れさせない」 「チッ……」 回避する為に気を逸らした隙に移動したのだろう。少女を守るようにその前に佇み浮遊する、1人の神姫の姿がある。 その神姫……顔からムルメルティア型と判断できる……は、自らの身長よりも長い大型の狙撃銃を持ち、足首からは光の翼のようなフライヤーフィンが煌めき羽ばたく様に展開している。恐らくはそれで浮遊をしているのだろう。 「先程のはサービスです。次は全て命中させてみせます」 だが面妖にも、その神姫は何故かロングドレスのメイド服を着こみ、頭にはご丁寧にカチューシャまで着けている。殺気に満ちた表情とは対照的でいささか困惑してしまう。 尤もそれが目的でそのような姿をしているのであれば、此方も油断するわけにはいかない。何しろ比較的低速とはいえ飛翔するグレネード弾を全て撃ち落したのだ。少なくとも、射撃の腕に関しては非凡といわざるをえない。 「アガサ、や~っておしまい」 「お嬢様、そのセンスは古いです……」 30年以上前の国民的?アニメのセリフに少し困惑した様子をみせながらも、両手で抱えるように所持していた実弾式大型ライフルをゆっくりと威嚇するようにしながら此方へ向け、構える。 「二度目は……ありません」 「く……っ」 狭い室内、しかも正面から向かい合っていている状況下では、此方の高速装備ではかなりの不利は免れない。 ジリジリと間合いを計るように後退し、反撃の隙を狙おうとした、その時。 「――お姉様の凛々しいお顔と、ネメシスちゃんのボンテージ姿、同一カットでゲットですわー♪」 パシャリと光を浴びせかけられ、同時に緊張感で水を打つように静かだった空間に、パシャリと無思慮なシャッター音が木霊する。そしてシャッター音とフラッシュの光源の元に居たのは…… 「そ、そこの飛鳥ぁっ!!!」 「……あ゛!」 急いで物陰に隠れようとするが、急旋回が祟ってゴンと家の柱にぶつかり、そのままみっともなくずるずると滑るように落下してゆく。 「……居たが?」 ギギギ、と軋む首を鈴乃とアガサ、2人の方へ恨みがましく向ける。 「あら、何か居ましたわね。でも余所の子でなくって?」 「そ、そんな酷いですわっ。鈴乃お嬢様ぁ!?緋夜子(ひよこ)は、身も心も鈴乃お嬢様の神姫ですのにっ」 視線の先には先程から表情の変わらない鈴乃と、こめかみに手を当てて頭を抱えた様子のアガサの姿があった。 「……どうやら、馬脚を現したようだ。今度は逃がさん――――フ、フフフフフ」 ペキペキと指が鳴る。ヤツの頭部を粉砕するだけでは飽き足らない。さぁ……どう料理してくれようか。 「――――待ちなさい。私が相手だと言った筈です」 すぅっと空中を滑るように、私と飛鳥型……緋夜子と言ったか……の間に割り込んでくるアガサ。 「邪魔をするなメイド。――この位置なら、一緒に葬ってやる」 LC3レーザーライフルの出力ゲージをMAXにセットし、照準を2人に向けて合わせる。先程は人間を巻き込み殺傷する可能性がある以上、最高出力はプロテクトにより発射出来なかったが、今度は違う。最高出力で2人まとめて吹き飛ばしてやろう。 「どうぞお撃ちなさい。でも、『ネメシス』ちゃん?。可愛い神姫が暴走神姫として廃棄処分になったら……『アキラちゃん』でしたっけ。とてもとても悲しむでしょうねえ……ふふふ」 「なっ!?」 その名前を聞いた瞬間、ピタリと2人を捉えていた照準が、AIの、身体制御の異常によって激しくブレる。心臓に無形の槍を突き立てられ、抉りまわされているかのようだ。 「貴様……自らの神姫を犠牲にしてまで、私を貶めようとするのかっ!?」 「あら、先に仕掛けたのは貴方。それに貴方の求める物を、まだ緋夜子が持っているとは限らなくてよ?」 和装の袖で口元を隠し、くすくすと笑う鈴乃。ヤツは人を貶める事を、心底面白がっている…… 「さぁ、貴方はどう動くのかしら。楽しみねぇ」 ヤツの言葉はブラフかもしれない。今撃てばデータを消し去れる可能性は、半分はある。 だが今、ヤツは私とアキラの名前を出した。特に公式試合にはリングネームで出場しているアキラの名前を知っているという事は、私たちの身元を多かれ少なかれ把握しているという事に他ならない。 「………ッ」 ギリ!、と皮膜が破れオイルが滴るほど、この手を強く握り締める。 「――――何のつもり、かしら?」 私はゆっくりと下降して地面に降り立ち、武器を捨て去り、その身ひとつで、土下座をしていた。 「――私はどうなっても、構わない。殺してくれても、いい。 だから……だから、アキラだけには……手を出さないでくれ……!」 深々と地面に頭を擦りつけながら、憎しみと恥辱と敗北感でオーバーヒートしそうな思考の中、搾り出すような声で懇願をする。 悔しさと情けなさで、涙が止まらない。だが今の私には、こんなことしか残された手段がないのだ…… 「……しょうがないわねぇ」 その鈴乃の今までと明らかに違う軽い口調に、思わず顔を上げる。そこには、くっくっと愉快そうに笑う鈴乃の姿があった。 「私も鬼ではありませんから。そこまで貴方が懇願するのなら、チャンスを差し上げましょう。 見事チャンスをモノに出来たのならば、データは消去しましてよ。そして――失敗したならば、貴方の言うとおりにすると致しましょう」 「…………有難う。――チャンス、とは?」 本来被害者である私の方が、有難うなどと言わざるを得ない、この屈辱。だが屈辱に耐えなければ、私たちの未来は永劫に暗黒の光に覆われてしまうだろう。 「私の神姫と戦い、勝ちなさい。 貴方に真に守るべき者と信念があるのならば、例えその身を滅してでも、自らの力量を以って道を切り開きなさい」 「――――承知」 再び大空を見上げるようにその顔を力強く上げ、地獄の業火の熱さを持つ灯火の宿った瞳が、鈴乃の凍てつく瞳とその視線が交差する。 「――――良い表情ね。それこそ武装神姫の顔だわ」 「当然だ。――――私は……アキラの誇るべき、武装神姫だ」 立ち上がるんだ。自らの足で、自らの力で。自分の汚名を、自分自身で晴らす為に。 「所で、その格好なんだけど……私は構いませんが、着替えた方が宜しいのではなくて?」 再びその表情を崩す鈴乃。今度は何か失笑を抑えきれないような、いや既にこらえきれずに笑い出している。 「……? 一体何……を……ををを!?!? 」 その姿は、エルゴの店内で診断を受けていたときの姿のまま……SMチックなエナメルボンテージの衣装のままだったのだ。しかも髪も衣装にも精液がこびりついて、一部は既に乾燥してカピカピになり始めている有様。 更に今の今まで気づかずに、この恥辱にまみれた格好で街中を滑走し、緋夜子を追いかけ、鈴乃相手にタンカをきっていたのだ。 「……きゅぅ」 そう思考が現実に追いついた瞬間、私の羞恥心はその限界を一瞬で突き破り、気を失った。 Web拍手! 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第五話:隠道姫 砂嵐が吹き荒れる道を二人が突き進む。先頭を走っているのは人形二体を従えて疾走するコタマだ。トップスピードに関してはあちらの方が上であるようだ。対してこちらは空中での自由度が高い。それをどうアドバンテージとして活かせるか、それが鍵になりそうだ。 『まずは、だ。……もっと熱くなろうぜ』 俺はアイテムパレットを表示して、選択する。その瞬間、コースは灼熱のマグマがあたり一帯に広がる。ステージチェンジャーだ。 「あっつ!!? なんだこりゃ!!?」 『ステージチェンジャーや! なんとかする!』 その直後、返しのサーキットが発動する。マグマ地帯は一瞬でサーキットコースへと戻り、仕切り直しとなる。 『慎重に来たか。だが……』 確か、峰山の時はアイテムコストを2は残している。強気に出られるわけか。 『こっちは9残している』 次のアイテムを発動する。その瞬間、晴れ渡っていた砂漠が一気に、暗闇に包まれた。 「うおっ!? まっくらだ!?」 『ダークネス……。あかん。コタマは暗視が……』 その言葉の通り、コタマは暗さで道を見失っているような様子を見せる。どうやら暗視には適していない素体を使っているようだ。 一方、蒼貴は高い暗視能力を持っている。加えて、不死鳥の翼のおかげで自分の周りだけ、多少の明かりを得られた。これでかなり有利に持って行けるだろう。 「くっそ! 走行どころじゃねぇ!!」 『一旦引いて、蒼貴についていくんや。速度はこっちに理がある。いつでも逆転できるで』 「なるほどな。それで行くぜ」 竹櫛の意見を聞いたコタマは蒼貴の後ろをピタリと張り付くような走行を始める。これで二周目になったら攻める。そういう魂胆なのだろう。 『蒼貴。スタンバイしておけ』 「はい」 なら、それに乗り、蒼貴に備えとして武器のスタンバイをさせる。その後は併走となり、何もしないままの膠着状態となる。やはり攻撃を始めからする気でいるらしい。 コースの最後のストレートに差し掛かるとコタマは攻撃のスタンバイを始める。一体は巨大なガントレットを構え、もう一体が対物ライフルを取り出す。 どうやら、この人形達は独立行動できる自立型の代物であるようだ。マオチャオ型やハウリン型が用いるプチマスィーンズよりも圧倒的に高度な攻撃が可能であることを伺わせる。 そして二周目に突入する。その瞬間、視界が明るくなり、コースが変化する。何の障害も特徴もないコース サーキットに変わった。 「っしゃあ! 一気に攻めるぜ!」 暗闇から解放されたコタマは十字架を握ってそれを動かすと射撃型がコタマの命令に従い、対物ライフルを放つ。さらにそれに合わせるように格闘型が突進してきた。 「実質、三対一ですか……」 蒼貴は格闘型が目の前に到達する前に対物ライフルの射線から逸れる位置にサイドステップをして移動し、小判を射撃型に放った。 小判はライフルを放った射撃型の額にヒットする。そこに運よくスタン状態に追い込む直後に隙を突いて、格闘型が両腕のガントレットで殴り掛かってくる。蒼貴は上へ飛び上がる事でそれを回避した。 『黒板消しで反撃。格闘型には回避からの捻脚だ。射撃型には卵をくれてやれ』 「まだまだ続くぜ!」 三回目のコタマの攻撃が来た。持っているのは十字架に代わって飛鳥の剣「霊刀 千鳥雲切」だ。それで突きを仕掛ける。 蒼貴はそれを横にスライドする様に回避するとすれ違いざまに黒板消しを投げつける。黒板消しはコタマの顔面にヒットするとチョークの粉が煙のようにコタマの顔を覆い尽くす。 「ゲホゲホ! くそっ! セコい真似しやがって!!」 煙にむせながら蒼貴を近くから追い払おうと千鳥雲切を振り回す。 蒼貴は一旦距離をとると再び襲い掛かってくる格闘型のガントレットを受け流し、その勢いで体のバランスを崩して回転力を得るとそれを利用した後ろ回し蹴り……捻脚を放った。 「これもどうぞ」 蒼貴はスタンから復帰した射撃型にイースターエッグを投げる。放たれた卵は復帰はしていても無防備になっている射撃型にぶつかると炸裂し、卵の白身のようなものがまとわりついて機動力を奪う。 しかし、射撃型は思い出した様に蒼貴に大きな穴が穿つためにライフルを放とうとする。だが、その手は止まる。当然だった。蒼貴はすぐに格闘型が射線に割り込むように移動したのである。 「ならこれだ!」 コタマは飛鳥のガトリング「三七式一号二粍機関砲」で弾をばらまく。それに対して蒼貴は急降下して射 線から大きく離れると二体の人形を操っているであろうコタマに向かう。 「『44ファントム』!」 「ぐっ!?」 攻撃を中断してそう叫ぶと格闘型が高速で接近し、ガントレットで蒼貴を殴打してきた。その一撃は蒼貴の脇腹を殴打し、痛みで動けない彼女を吹き飛ばす。 「あばよ~!!」 そしてコタマは落ち行く蒼貴に目もくれずにその間に差をつけるべく、人形達を引き連れて、飛び去って行く。追撃よりも差を開いた後での迎撃を選んだようだ。 『蒼貴。大丈夫か?』 「ええ。衝撃を逃がさなかったら落ちていました」 俺の言葉に答えながら蒼貴は翼で体勢を立て直す。翼の自由度に助けられ、かなり早く、 飛行に戻ることができた。 『にしても厄介だ。三体で袋叩きをやれるようにしてくるとは』 「ええ。でも動いているのは二体までです」 「ああ。噂どおりではある。射撃型、格闘型を操るか、自分で行動するかだな」 あの人形について多少わかってきた。 あれは自立でもなんでもなく、コタマが操っているのだ。どういう理屈かは知らないが、指令を飛ばし、コタマの意のままに動いているのである。 噂はネットで事前に見たことがあるが、何とまあ無茶苦茶な能力である。だが、やはり欠点もあった。蒼貴の言う通り、操る、あるいは攻撃するための手は二本しかないため、実際に同時行動しているのは二体までだ。状況に応じて誰が動くかを決める必要がある。 また、格闘型はガントレット、射撃型はライフルのみで武装の使い分けはない。コタマが連射力のある武器を使ったのがいい証拠だ。 「まずは巻き返す、だ。翼の力を見せてやれ」 「ええ」 何にしても追いつかなければ始まらない。ここは一つ足止めできる手を打つ。蒼貴は俺の言葉を聞くと翼を広げ、自身を、翼をも輝かせた。 「……『焼滅の宴』」 「はぁぁっ!!」 神力解放をした蒼貴は両腕から細い熱線を大量に放つ。熱線は人形達をも巻き込んでコタマに降り注いでいく。 「な、なんじゃありゃ!? 盗賊姫にあんな隠し玉があるのか!?」 『それも焼滅の宴を拡散させとる。一本一本の威力は大したことあらへんけど……』 竹櫛は俺の意図に気付く。コタマはばらまかれる宴で足を止められ、ほとんど立ち往生に近い状態で回避を繰り返している。 そこに蒼貴が飛翔し、接近する。追いつくには遠いが、投擲をするには十分な距離は詰まった。 『塵の刃を投げまくれ。その中から卵と小判で先打』 蒼貴は塵の刃で苦無を大量に作り出すと、惜しみなく投げつける。さらに移動のルートの先にイースターエッグや小判を投げつける。 「ちぃっ! そう簡単に追いつかせるかよ!」 格闘型に自身の防御をさせるとコタマは射撃型と共に蒼貴に射撃を仕掛ける。 逃げながらの射撃はあまり正確ではなく、攻撃は蒼貴を通り過ぎていくか、投擲武器を打ち落とすかのどちらかにしかならなかった。 さらに接近する蒼貴にコタマは格闘型を操って応戦する。格闘型が突っ込み、蒼貴を吹き飛ばしにかかる。 蒼貴はそれをかわすと鎌を振るって反撃に出る。それに対しては格闘型は右手のガントレットで防御し、カウンターを放つ。 受ける蒼貴は外側へ移る事で避けると即座を苦無を投げつける。だが、それもまた、ガントレットで防がれてしまう。 『捻脚から霰舞』 俺は更なる指示を出す。 蒼貴はそれに反応し、ガントレットによる殴打でわざと姿勢を崩して勢いをつけるとそのまま踵落とし、さらに翼で上を舞う。 そこから攻撃……鋭い足の鉤爪によるムーンサルトを絡めたダンスを披露してみせた。 ガントレットで防御する格闘型だったが、蒼貴はガントレットに覆われている場所以外を執拗に狙うようにステップを踏んでいたため、さすがに防ぎきれずダンスの途中で左腕をボロボロにし、防御に使えない状態に追い込んだ。 さらに遠方からライフルを構える射撃型が見える。 蒼貴の頭を吹き飛ばそうという魂胆なのだろう。 『誘牙』 「お任せを」 それに対して蒼貴は苦無を三つ投げつける。 放たれる攻撃を射撃型は難なく回避し、容赦ない攻撃を仕掛けようとスコープを見る。 ……だが、その攻撃は実行されなかった。 スコープ越しに見えた三つの手裏剣によって。 一回目、ライフルに突き刺さり、暴発によって手ごとライフルが吹き飛ばされる。 二回目、無防備になっている所を腹に手裏剣が沈んでいく。 三回目、胸に突き刺さり、大ダメージを負わせた。 射撃型は殺到する手裏剣のダメージで限界が来たのか、そのまま動かなくなり、地面に落下していく。 『まずは一体』 「くっそ! パクリ技の百科事典か何かかよ!?」 射撃型をやられたコタマは蒼貴の悪口を言いながら、空いた手で機関砲を連射する。 蒼貴はその言葉に乗る事もなく、捻脚の要領で身体を捻って、そのまま下に降りて避けてみせた。 そしてお礼の黒板消しを進呈する。それは格闘型が割り込んできて残された右腕のガントレットで防御する事で防がれた。 さらにカウンターで左のガントレットが迫る。蒼貴はそれを左に避けて、反撃を加えようとする。 だが、格闘型は一回転してもう一回裏拳で攻撃する。 蒼貴はとっさに塵の刃で盾を作り出して防御するが、その二段攻撃に耐え切れず、また吹き飛ばされてしまう。 「もらったぁ!!」 その隙を突いてコタマが剣に持ち替えて襲い掛かってくる。この刹那的な状況では蒼貴は回避できない。 蒼貴は鎌で防御するが、コタマの勢いが強すぎて取り落としてしまった。 「なっ!?」 「もういっちょ!」 コタマは格闘型を操って打撃を仕掛けさせる。背後からの攻撃で一気に決めるつもりだ。 『剣を奪え』 対策を打ち出す。蒼貴は操るので注意が逸れている剣を握るコタマの手に手刀を放って、手放させるとその剣を取って、格闘型の攻撃を受け流す。 そのまま剣で持ち主であるコタマに攻撃する。彼女が機関砲に持ち替えて迎撃する中、塵の刃で盾を作り出して防ぎつつ、接近する。 間合いにたどり着くと横一閃を放って機関砲の砲塔を切断する。その直後、背後から格闘型が殴りにかかる。振りかぶっての一撃、蒼貴の隙をついての決定打だ。 『下に移動だ』 それに対して、蒼貴は後ろへと素早く体を倒して、下へズレる様に移動する。 そうすると決定打を与えようとしたのが災いして、格闘型はそのまま主に向かって突っ込んでいった。 「くっそ!」 「お返しします」 さらにコタマの剣を格闘型に投げつける。コタマにぶつかって無防備になっていた格闘型の背中に深々と突き刺さった。 「ぬわ~!?」 『コタマ!?』 コタマの叫び声が響く。どうやら格闘型を貫通して、コタマにも突き刺さったらしい。蒼貴は油断しないように塵の刃で苦無を作り出して、身構える。これで倒れてくれれば万々歳だが……判定が出ない。 『蒼貴、奴はまだ……』 そう言おうとした瞬間だった。ワイヤーか何かが格闘型の後ろから伸びてきて、蒼貴の手足を縛った。 「これは!?」 「かかったな!」 動かなくなった格闘型が落ちてコタマの姿が露わになる。 なんと彼女はとっさによけようとしていたのか、無傷だった。どうやら小柄なスモールタイプの素体で助けられたようだ。 そんな事より蒼貴だ。手足をワイヤーで縛られて動けない。いったい何があったというのだろうか。 「『F.T.D.D.D.』。そう呼んでんだ」 「身体が……いう事を聞かない……!?」 「ああ。んでもってこういう事もできる!!」 コタマの言葉と同時に蒼貴は自分の意志とは関係なしに自らの胸に突き立てるために塵の刃でできた苦無を向ける。あのワイヤーは拘束した相手の手足を自分の制御下に置く……つまり相手を操り人形にできる機能だった。 「とっとと自決しやがれ! 半分娘!!」 死の宣告と共に蒼貴の胸に苦無が突き立てられる。 『蒼貴!!』 俺の叫びも空しく握られた苦無は主に突き刺さる。蒼貴はゆらりと揺れると地面へと倒れる様に落ちていく。 「そのまま落ちな!」 『コタマ! ワイヤーを離さんどいて!!』 既に勝敗が決したと思ったコタマは自分が引きずられて落ちないようにワイヤーを外そうとすると竹櫛に止められる。 「えっ!?」 しかし、外してしまった。その瞬間、蒼貴が再び飛び上がって翼を広げる。その胸に傷は……ない。 「どういうこった!? 確かに制御して刺したはずだぜ!」 「ええ。確かに操られていました。……しかし、CSCやコアの制御まではできなかった様ですね」 その瞬間、俺は把握した。蒼貴は刺される直前に唯一、制御の残っているCSC……つまりはスキルである 塵の刃を解除したのだ。だから自決するための武器はなく、胸を手が叩くだけの無意味な行動となった。 俺はすぐにアイテムを使う。使うのは……『神力解放』継続のためのコンバットハイ。 「粉塵爆発って知っていますか?」 時間切れになっている神力解放を発動し直す蒼貴はそう問いかけながら、七色に輝く塵の刃の塵を自分とコタマの周囲に高濃度でばら撒く。 「な、何をする気だ!?」 「こうします……!!」 不死鳥の翼から火花がばら撒かれる。そうすると爆発が一から十、十から百と連鎖的に数を増やし、辺り一帯に起こり、爆炎が蒼貴とコタマを包んだ。 「どわぁぁぁぁ!?」 爆発の規模は大きく、煙で蒼貴達が見えなくなる。だが、その結果は数秒で分かった。巻き込まれないように折りたたんでいた翼を広げ、飛翔し続ける蒼貴と落ちるコタマ、その姿が煙の中から出てきたからだ。 『Destroy!!』 撃破判定が出た。この戦闘不能は演技でも何でもないようだ。それを証明する様にコタマのグラフィックが散っていき、消えた。 『You Win!! Winner チーム尊』 勝利判定が出て、二勝一敗の俺達が勝利したことを告げ、アクセルロンドのシステムが終了した。 これで俺の秘密は守られる。やっと肩の荷が下りたというものだ。 「だ~! 何だありゃ!? お前は狩りゲーのライオンか何かかよ!!?」 「言っている事はわかりますが、私は忍者です。あれは火遁の術みたいなものです」 シミュレータから戻ってきて早々、納得のいかないといったコタマが叫び始めた。言っていることは蒼貴の言う通り、わかるのだが、こちらはそれなりの思い付きでやっている。ゲームのように都合のいい風にはいかない。 「んなもんで済むか! おい! 二股マスター! 説明しろ!!」 「すごく犯罪くさいからその呼び方は勘弁してくれ。説明はしてやるから」 コタマから心外な称号を与えられた俺は新技を説明を始めた。 『炎塵』 それが蒼貴の新スキル、それもオリジナルだ。高濃度の塵を周りにまき、不死鳥の翼を火種にして、粉塵爆発を巻き起こす塵の刃の応用技である。 不死鳥の翼と尾による「炎」と塵の刃の「塵」の組み合わせによって自在に爆発を引き起こせる。それ故に『炎塵』という名前で用いている。 塵の刃で用いる周囲の塵も、SPも消費しつくしてしまうため、使えば塵の刃をその場では生成できなくなるものの、その威力は絶大だ。近接を仕掛けてくる相手であれば余程後退されない限り、爆発に巻き込めるため、奥の手として今後は使えるだろう。 しかし、翼がない方が塵の刃を最大限に使えたり、紫貴と連携したりするため、これはタイマン勝負で使う手段という意味合いが強い。単に威力を補うなら紫貴に任せればいいだけの話なのだから。 「おもろい技やね。それも一発逆転の大技って訳ね」 「ああ。どちらかと言えば単機で攻める時用になるな。紫貴と連携しにくくなるから普通はやらん」 「双姫主ならではの欠点ね。尊にとっては手札の一枚ってとこ?」 峰山の言う通りという事になる。俺、蒼貴、紫貴、武装強奪、武装破壊、連携、模倣技、オリジナル技。これらの手札全てが俺達なのだ。 一枚にこだわるだけが戦い方というわけではない。 「ああ。蒼貴だけの時の切り札だ。さて……種明かししたが、勝負は俺の勝ちってことでいいな?」 「むむむ……。悔しいが、てめぇの勝ちって事にしてやる。秘密も守ってやるぜ」 「それでいい。後はどうする? 今度は賭け無しで普通に戦ってみるか?」 「は? 何言ってんだあんた?」 「おかしい事言ったか?」 「秘密をばらそうしたり、いろいろ文句言った奴にそれを言うのか?」 「それに関しては、賭けで勝ったからそれをお前が守ればいい。もう一つのルールも守れるだろ?」 「もう一つのルール?」 「そうやね。むしろそっちの方が大事やし」 「な、なんだよ? 鉄子ちゃんはわかったのかよ?」 「それはね……」 俺の言葉の意味に気付いた竹櫛は秘密を知らない貞方や峰山には聞こえない様にコタマに小声で説明した。そうすると彼女の顔はやかんの様に顔真っ赤になって怒り始めた。 「なぁあにぃぃっ!!!?」 コタマは素っ頓狂な声を上げる。それはそうだ。『これでばらせばコタマ、引いては竹櫛も不利益を被る』のだから。 話の全貌はこうだ。俺の正体を竹櫛が気付いた場所は遠野貴樹のイベントだ。写メを撮った場所もそこだ。そしてそこで提示した遠野のルールは…… 『ここでの決まり事は必ず守ってもらう。 ……なに、難しいことじゃない。 一つは、俺の指示は最優先にしてもらう。といっても、大方はミスティとの対戦順についてだから、気をつけてもらえれば問題ないはずだ。 次に、ここでのことは他言無用だ。ネットへの書き込みや、ゲームセンターで話題にすることも禁止。必ず守ってもらう。 それから、神姫に記録されたバトルログも持ち出し禁止だ。ここのVRマシンを使っても、バトルログは神姫側に記録されない。だが念のため、データのバックアップは、あくまで自宅のPCで行ってくれ。帰りがけにゲーセンや神姫センターに行くのは禁止だ。もし、バトルログが必要であれば、この特訓が終わった後に、メディアで提供する。それまで待ってほしい』 つまり、俺の正体をバラすという事はその情報ソースである遠野貴樹のイベントをバラすに等しい行為なのだ。バラせば『ドールマスター』の信用もまた落ちる。 バラした場合の竹櫛達の直接的なメリットはないに等しい。むしろデメリットの方が大きすぎる。 コタマは頭に血が上っていて気付いていなかったようだが、終始冷静で、対戦を楽しんでいただけの竹櫛は初めからわかっていたのだった。 「こんの、確信犯がぁっ!! いいぜ! 普通に戦ってやる! 普通に! 全力でな!! メル! あの二股マスターをぶっ飛ばすぞ!!」 「え? あ、うん。ショウ君はいい? 双姫主とだけど」 「ああ。こういう機会だ。一回ぐらいはやっとかないとな」 コタマはメルを巻き込んでのバトルロンドに決めたらしい。戦いの後だというのに大したものである。ああいう気持ちもまた、武装神姫では必要な要素だと思った。 力にも、弱さにも流されずにひたむきに前を向こうとする姿勢。それが『ドールマスター』という形となって今あるのだろう。 「メンバーは決まった様だな。バトルロンドで対戦するか」 コタマのあり方を考えながら、彼女の戦いに応じる。バトルロンドでの戦いはどうなるのか、楽しみな限りだ。 「だが、その前に一休みとさせてくれ。何、時間はかからん。飲み物を買って飲むぐらいだ」 「何ぃ? 逃げんのか?」 「ええよ。私も飲み物を飲みたかったし」 「って……鉄子ちゃんもかよ。仕方ねぇ。待っといてやるよ」 が、その前の小休止を要求する。緊張が続いたので精神的にどっと疲れた気分にあるからだ。その要望はマスターの竹櫛があっさりOKを出してくれたおかげであっさり通る事となった。 「そうか。じゃあ、そうさせてもらおう。すまん。真那、蒼貴と紫貴を見といてくれ。すぐに戻る」 「わかったわ」 「……心配すんな。竹櫛には気にしている奴がいるし」 「な、何言ってんのよ! さっさと買ってきなさい!」 「はいよ」 少々、真那をからかうと蒼貴と紫貴を彼女に預け、俺は竹櫛と共に自動販売機に向かうことにした。 「そういえば、どうしてコタマの挑戦を引き受けたん? さっきの話なら勝負を受けなくとも私がコタマを止めておったよ?」 多少距離のある場所にある自動販売機まで歩いている間、竹櫛は俺に話しかけてきた。どうやら、話は最初から分かっていても理由まではわからなかったらしい。 「二つ理由がある。一つは『ドールマスター』に戦ってみたかったからさ。強いというのはネットでもよく耳するからな。手合せしてみたかったわけだ」 「もう一つは……?」 「賭けをした方が燃えるタイプだと考えた。あいつ、あの時に本気を出さなかっただろ?」 「あ……」 理由と本気を引き出す手段を答えると竹櫛は心当たりがあったのか、ハッとした表情になる。そう。遠野のイベントでの対戦を観戦していた時l、ネットで噂されていた手札の中で切り札である「F.T.D.D.D」……つまりは相手を操り人形にする技を使っていなかった。引いては全力を出さなかった事になる。 だから、本気を引き出すために燃えるシチュエーションを用意した。負けてもデメリットに気付いている竹櫛が阻止してくれるだろうから保険を掛けるまでもない。そのまま、コタマの言う事に流されるだけで本気のコタマと戦える展開になる。結果はさっきの対戦通りだったというわけだ。 しかし、バトルロンドではなく、アクセルロンドを仕掛けてくるという所までは予想していなかった。そのため、戦術を変更する事を余儀なくされ、チケットを使って不死鳥の尾を手に入れたり、アクセルロンド用の戦術を真那と一緒に用意することとなったのである。 「なるほどねぇ。もし負けて、私たちが言うと思わかったん?」 自動販売機に辿り着くまでに一通りの説明をすると竹櫛は納得した様子で頷いて、問いを投げかける。 「これっぽっちも思っていないな。コタマは何とも言えんが、竹櫛がそういう事をするのはまず無いと考えた。コタマが勝って天狗になって言いふらそうとしてもお前が止めてくれる。そう、確信してた」 「ありがと。……それにしてもすっごい自信ねぇ。だからそんなに強いん?」 「それは違うな。さっき言った通り、俺達全てで強さなんだ。自信も手札の一つでしかない」 竹櫛の問いに信用と自信をもって迷いなく答える。周りの要因も、自分も、味方も、全ての事象をひっくるめてカードゲームそのものだ。手札から何ができるか、山札から状況を変えるカードを引くことができるか、捨て札からどんな情報が得られるか。言い換えられる事は非常に多い。 「持ち札で何ができるか。それを考えているだけさ」 「確かにトランプのゲームで言い換えればそうなるね」 「そういう事だ。……っと、ドリンクは奢るぜ。選んでくれ」 「ええの? 真那さんおるやん」 「対戦してくれた感謝の印みたいなものだ。受け取ってくれ。あいつには別で何か買ってやるさ」 「なら、お願いしよかな。ミルクティーで」 「OK」 竹櫛の注文を受けた俺は自動販売機にお金を入れて、ミルクティーと、俺の分であるスポーツドリンクを勝って、ミルクティーを彼女に手渡した。 「ありがとね。……前にも聞いたけど、正体はいつまで隠し続けるん? 私達が言わなくても多分、いつかバレるんやない?」 「そうだろうな。ちょっとした拍子にこういう事は起きる。いつか友達にも話すかもしれん」 「その時は?」 「その時だ。縁が切れるも、切れないも、俺次第さ」 これまでの俺を武装神姫という色を入れたら、武装神姫をする前の友人からはどう見えるか、不安ではあるが、どうあがいてもそれら全てが自分になる。ちょっと小細工するだけで何かが変わるというわけではないだろう。 「……私は切れない事を信じてる。尾上君が積み上げてきているものは、すごいから」 「すごいってもんじゃないさ。友達の約束を果たしたいだけだ」 「それがすごいんよ。誰かのためにできる事があるって」 「そうか。……ありがとう」 「礼はええよ。……せやね、背比の事で応援してくれた事のお礼と思っといて」 「OK。そういう事にしておくぜ」 「さ。そろそろ戻ろ。コタマは待たせすぎると何をするかわからんで?」 「そうしよう。何をするか想像もつかん」 短いやり取りが終わると待たせている皆、特にコタマの事を考えて、俺と竹櫛はシミュレータの場所へと戻るために歩き始める。 誰かのためにできる事がある、か。竹櫛からは大事なことを学んだ事を気がする。遠野の体現してくれた絆は俺がもたらすものを、竹櫛の言葉は俺の行動の意味を教えてくれた。 いつか、守のような神姫を嫌う友達にこの事がバレたとしても、自分の成した事、その友達と積み重ねた物があれば、縁は切れないと思い始めているのを感じる。 可能性がゼロじゃないと思えるのなら、それを信じていれば、何かが変わる。隠れるだけの道から変われるだろう。 変わりたいと。まずはそう思おう。全ては、そこからだ。 第二部:15周程度の疾走 -終- トップへ 戻る
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凪さん家の十兵衛さん 第五話<殺戮の歌姫> 闇、漆黒の空に木霊するは、妖しき姫の歌声。 今日もまた、歌に魅了され己を無くした者達が、残酷な舞踏を披露する。 光、漆黒の空を貫くは、地獄から来た悪魔の咆哮。 それは不幸の鎖を食いちぎる者、その左目に輝くは、紅き決意の灯火。 「第一、第二小隊は第三小隊の活路を開け!第四、第五小隊は第三小隊の援護!なんとしても奴を倒すんだ!」 『ラジャー!!』 薄暗いワゴン車の中、モニターの光だけが車内を照らす。画面には無数の神姫の姿が映し出されている。 「今日で終わりにしてやる…」 そうつぶやき、眼鏡を光らせたのは、あの男。 ある日友人が持ってきた無残な神姫を、神姫への愛と己の技術を総動員して直し、後に伝説なる証、 左目の眼帯を与えた男。黒淵 創(くろふち はじめ)だ。 痩せ型の長身、だが適度に整った筋肉と顔立ちによりひ弱さはまったく感じられない。 「当たり前だ、創。今日で終わらせる!」 とその仲間が言う。 「あぁ、そうだね。…ミーシャ!他の奴には構うな!今は目の前の元凶を倒すことだけを考えるんだ!」 「了解マスター!行くよ!皆!」 マスター、私はいつも「ご主人様」と呼んでいる。 しかし戦闘時だけはマスターと呼ぶことにしている。 『ラジャー!』 と勢いを増した第三小隊の面々は一目散に目標へ向かう。 中央に位置するは創の武装神姫、天使型のミーシャ。その左右に控えているのはヴァッフェバニーだ。 これは本部より貸し出された神姫である。よって、決まった名前は無い。 今回の場合はツヴァイ3、ドライ3と呼ばれている。第三小隊の二番、三番機の意だ。 「マスター!目標を確認!情報通り天使タイプです!」 「よし!敵は手ごわいぞ…!慎重にな」 「了解!」 「おい!大丈夫か!シン!!おい!…くそ…第一小隊…全滅を確認…」 「くっ!」 「なんだ!?」 「敵の勢いが増しています!このままでは!」 予想をはるかに超えた軍勢がこちら側の神姫達に迫る。 「ミーシャ!!」 「了解マスター!」 私は今回の作戦の最優先目標にロックを合わせる。 今回の戦闘で、破壊許可が下りているのはあの大元の神姫のみ。 他の神姫は操られている神姫だ。中には非戦闘用の神姫もいる。 そう、神姫といっても大きく二つに分けることが出来る。 神姫と「武装」神姫だ。元々神姫と呼ばれる十五センチサイズのフィギュアロボは戦闘用ではなかった。 ただ純粋に人間のサポートをするために生み出された存在。 しかしある時…神姫に武装を施し、競技として戦闘行為を行うマスターが出てきた。 他の神姫のマスターもその競技と称した戦闘行為に賛同し、参加した。 そうして拡大を続けた戦いは、バトルサービスという公式に認められしものとなり。正式にバトルサービス本部が設立されたのだ。 そしてその集大成となるのが、最初から戦闘行為を考えられて開発、誕生した私達「武装神姫」シリーズである。 そんな二種類の神姫達がたった一体の神姫に操られ、暴走している。しかしあくまで操られているだけの彼女らに非は無い。 よってなるべく無傷で元のマスターの元へ戻す必要がある。 それが本部からの通達だ。はっきりいってかなり難易度の高いミッションである。 敵となってしまった友人達は容赦無くこちらに攻撃を加えてくるのに、 こちらはそうするわけにはいかないのだ。 私達はそんな容赦無い攻撃を受け流し、耐え続けなければならない。 しかし時間が長引けば長引くほど私達が不利になる。よって迅速な行動が勝利の鍵。 「いけぇぇぇ!ミーシャぁぁぁ!」 仲間達の想いと供に私は空を翔ける。 「はぁ、はぁ…」 そうして私は対峙した…白き天使に。 「いえ、悪魔ね…」 その敵はにやりと微笑み 「あら、悪魔だなんてひどいわ…フフ…貴女と同じじゃ無いの…」 「形が同じでもその心は違う!絶対に!」 「そう…じゃあ身を心も同じにしてあげる…」 その笑顔が歪んだ。 「!?」 強烈な精神波が私を襲う。これが例の…ぐ…心が侵食されていく、頭の中が取り替えられるような感覚。 ぐちゃぐちゃにかき回されていく…今までの思い出…それがどんどん遠くへ行ってしまう… ぐ、そんなの…あぁ…い、だ…めぇ…。 「ミーシャ!!!しっかりするんだ!!」 マスターの声が聞こえる。 「マ、スタ…」 「ほら、ほらほら…早く楽におなりなさい…」 あ、あぁぁぁぁぁ!一層精神波が強くなる。 「ぐ…、うぅぐ」 「ふふふ、がんばるわね?でも貴女のお仲間さんはもう私の友達になってくれたみたいよ?」 「え、まさか…ツヴァ、イさん…ドライちゃ、ん…」 抵抗を続けていたヴァッフェの二体は無残な姿になっていた。 装備を剥がされ、目を刳り貫かれ、腕はもぎ取られ…しかしそんな外見になっても立ち上がり、そしてこちらに銃を… 「そ、そんな…ぁが!」 パァン…パァン… 銃声が無数に響く。さっきまでともに戦ってきた仲間の銃弾が私に牙を向く。 「ぐ!あぁ、ぐぅあ!」 「ふふふふふふ…」 天使の象徴である翼には穴が開き。装甲がはじけ飛ぶ。 「く、ぬぅ…」 「あら、まだ動けるの?強情な子…じゃあもっと痛い思いなさい」 そう言うとその白き悪魔はそっとミーシャに近づく。 「ぐ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 途端、腹部に激痛が走る。そして背中から青白い閃光がはみ出し、貫いた。 「がは、ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ほらほらほらぁ…どんどん深く刺さっていくわ…ふふふ」 「ふぁ、ぁが…ぐ…」 意識が遠のく…も、もう駄目…ま、ますた…ぁ。 「さて、そろそろお遊びは終わ…?…ちっ…もうそんな時間?」 と、急に攻撃の手が止まる。腹部に突き刺されたライトセーバーはその凶刃の展開をやめ、セイバー発生部まで体内に入っていた状態から一気に引き抜かれる。 「ぐはぁっっっ!!がは…うぐ…」 私はその痛みに耐え切れず崩れ落ちる。そして 「ぐぁっ!?」 頭部に衝撃。白い悪魔が私の頭を踏みつけていた。 「ふん、運が良かったわね…でも次は…それとももう怖くて外に出られないかしら?」 「ぐ、う…うぅ」 私は涙を流していた。恐ろしいほどの恐怖、そしてその恐怖に負けた悔しさでだ。 「まぁいいわ…覚えておきなさい…私の名前はセイレーン…無垢な神姫を幸せの世界へと誘う女神…」 「がはっ!…セ、セイレーン…」 そう言うとセイレーンと名乗った神姫は私の頭部を踏み台に高々と飛び上がり、消えていった。 動かない体、目の可動範囲のみで辺りを見渡す。残ったのは装甲や武器の残骸だけ…神姫と呼ばれていた者達は一体として残されてはいなかった。くっ…連れ去られたんだ…。 「み、み…んな…」 私のせいだ、私がちゃんと出来なかったから皆が…。 「う、うぅ…う…」 私は泣いた…泣き続けた。遠のく意識の中で最後に見たのは走ってくるマスターの姿。 私を抱きかかえるマスター。 「…っかりするん…!みー…ゃ!!…―しゃぁぁ…ぁぁ!!」 私の意識はそこで途絶えた。 復帰したのは二十三時間後になる。 キュウン…センサー起動、視覚正常、全システムオンライン。 「う、うん…」 私は重いまぶたを開けた。 「ミ、ミーシャァァ!!!!」 「やったな!!」 「ミーシャさん!!」 目の前にはマスターいえ、ご主人様…それに凪 千晶様とその神姫、十兵衛ちゃんがこちらを覗いて 文字通り三者三様の反応を見せていた。 「ご、ご主人様…凪様…十兵衛ちゃん」 「「「ミーシャァァァ!」」」 「ふえっ」 ご主人様が私を抱き寄せる。 「良かった…本当に良かった…」 「ご主人様…」 「良かったです!ミーシャさん!!」 「おう、ひやひやしたぜ」 「ご、ご心配かけて申し訳ありませんでした…」 「良いんだよ!ミーシャさえ無事でいてくれたら!」 ご主人様はさらに私をすりすりする。 「あ、有難うございます…で、でも…」 そう言うとご主人様の表情が暗くなる。 「ミーシャ…うん、そうだね…」 「皆は、皆はどうなったんですか!!」 「…残ったのは…ミーシャ…君だけだ…」 「そ…そう…ですか」 信じたくなかった。でもそれが事実…。 「ミーシャさん…」 「………」 そうしてご主人様は私を机の上にそっと降ろす。 「なぁ…凪…」 凪様の方を向くご主人様。 「ん?…なんだ?」 「…僕は、なんとしてもあの違法神姫を食い止めたい」 「あ、あぁ…そうだな…危険だなぁ…」 「頼む!!十兵衛ちゃんの力を貸して欲しい!!」 と頭を下げるご主人様。 「…」 無言の凪様 「え…」 驚き、口に手を当てる十兵衛ちゃん。 「ご、ご主人様…?」 「分かってる!自分が何を言ってるかは重々承知だ!でも頼れるのは十兵衛ちゃんしかいない! あの神姫に対抗できるのは遠距離攻撃、それも超遠距離攻撃法を持った十兵衛ちゃんだけなんだ!! 頼む!!僕の友人達の神姫を救いたいんだ!!」 部屋の中に静寂…音で表すなら、まさしく「シーン」が相応しい。 「言いたい事はそれだけか?」 「…」 凪様の言葉は重く冷たい。 「確かにお前には感謝してる…。十兵衛の恩人だし、他の事だったら快く受けただろう 。でもこれは違う。十兵衛が今まで体験してきた地獄…それをしろと言ってるのと同じだ…」 「…」 そう、話によれば十兵衛ちゃんの前身は地下の違法バトル出身の神姫だという。そこで培ったスキルと眼帯に内蔵された超高性能カメラを駆使し、 この前の新人戦では新人の名に相応しくない圧倒的な強さを見せて優勝していた。 しかし十兵衛ちゃんはいつしかその地下での戦いを拒むようになり、ついに逃げ出したのだ。 「それに…」 「…」 「頼む相手が違うぞ」 「え…」 「戦うのは俺じゃない、十兵衛なんだろ?確かに俺はどちらかと言えば反対だ。 でも俺は十兵衛になら出来るんじゃないかと心のどこかでそう思っている」 「マスター…」 「だから…頼むなら十兵衛に頼め!俺は十兵衛の意見に合わせる…」 と背を向かれてしまった。 「凪…」 「マスター…」 「十兵衛ちゃん…」 「はい…」 「君の答えを聞かせてくれ…もちろん無理をする必要は無いし、君一人を戦場へ向かわせるつもりも無い…」 「黒淵さん…」 「…」 しばし静寂…。そして十兵衛ちゃんが口を開いた。 「良いですよ、やりましょう」 「じ、十兵衛ちゃん…」 「マスター!私やります!私もこれ以上皆が…ミーシャさんがこんな目にあうのは見たくありません! それに私にしか出来ないなら!私がやるべきなんです! 私はこれまで地下で何体もの神姫を文字通り葬ってきました。 その罪を償うわけじゃありません…でも…せめて …せめてこれ以上!神姫達やマスターの方々に悲しい気持ちになるのを黙って見ていたく無いんです! お願いします!マスター!私に戦わせてください!」 十兵衛ちゃん…なんて勇敢な…その表情からは揺ぎ無い圧倒的な決意が見て取れる。 「…」 凪様は静かに振り向き 「よし、やっちまえ十兵衛」 とにやりと笑った。 「はびこる悪を正義の業火で焼いてやれ!」 「はい!マスター!!」 「凪…十兵衛ちゃん…」 「そういうことだ創。協力してやるよ」 「凶大な悪を打ち倒しましょう!!」 あ、あれ…なんでノリノリ? 「で、でも!」 思わず口が動く。だってもし失敗したら十兵衛ちゃんが! 「大丈夫ですよ…ミーシャさん」 「じ、十兵衛…ちゃん」 「大丈夫です」 にっこりと微笑んだ。悪魔型で左目に眼帯をつけたその神姫の姿は 今までのどの神姫よりも天使に見えた。 さて、やっと俺達の出番か…まったく主役を蔑ろにするとは何事だ。 「まぁまぁマスター、良いじゃないですか」 「うぅむ…しかし…」 それにしても…まさか非公式なバトルをする羽目になるとは。しかもリアルバトルだ。 いや、バトルと言えるものなのかすら怪しい。 「大丈夫か?十兵衛?」 俺は不安になった。 「はい、怖くないわけではないですが…でも大丈夫です。もう私は一人ではありませんから」 「十兵衛…そうだな!」 とはいえいくら十兵衛でもファーストリーグランカーのミーシャでも敵わない相手を倒すことが出来るのだろうか。 確かにこの前の試合、 連勝街道まっしぐらなどこぞの金持ち坊ちゃんのやたらごちゃごちゃ武装したそいつの神姫を十兵衛は何食わぬ顔 (いや、実際はかなり怒っていたのだが)で撃ち抜いた。 その試合時間はわずか一秒。 この話は今思えばあまり思い出したくも無い、あぁなんか腹立ってきた…ま、まぁそのうち話すとしよう。 それはそれとして、とにかく十兵衛の戦闘スキルは特筆すべきものがある。だが…。 いや、待てよ…今回十兵衛がすることは簡単だ。 創達の神姫が囮となって引きつけている間に、十兵衛が超遠距離から目標を撃ち向く。 よく考えれば一番安全なのは十兵衛だ。十兵衛はひたすらチャンスを狙えば良い。 十兵衛に限ってチャンスを逃す…なんて真似はしないだろう。確実に初弾必中だ。 「うん、大丈夫だな…」 「はい!!」 「じゃあ行くよ。凪、十兵衛ちゃん」 創の準備が整ったようだ。 「おう」 「はい!行きましょう」 そして薄暗いワゴンの中。俺と創、その他のメンバーは数台に別れて車内に、十兵衛やミーシャ達は初期位置についていた。 「気分はどうだ、十兵衛」 「はい、大丈夫です」 ごぉぉぉぉぉぉっという音が相応しい風の音。 私は目標到達地点から程よく離れた6階の屋上に来ていた。 後ろには護衛としてヴァッフェバニーがいる。 「え、えと、本当にX2、X3さんで良いんですか?」 私は二人に話しかけた。 「ええ、構わないわ」 「大丈夫よ。X1…いえ、十兵衛さん」 なんでX2、X3なんだろうか。 「それはこの小隊が第X小隊。本来は存在しない小隊だからよ」 と、さっきX2さんが教えてくれた。 「でも、本当の名前とかは…」 「もちろんあるわ、でもそれは私自身が分かっていれば良いこと」 「今回はX2、彼女はX3と呼んで頂戴」 「は、はぁ」 「そうね、この戦いが終わったら教えてあげる」 「わ、分かりました」 「ザ…気分はどうだ、十兵衛」 マスターの声だ。 「はい、大丈夫です」 「もうじき始まる。気を抜くなよ」 「はい!」 「絶対無事に帰って来い!」 「もちろんです!マスター」 漆黒の闇が訪れる…。 闇ととも現われるは、悪魔の歌声を持つ天使。 無数の操り人形を従えて、今日も舞踏会が幕を開ける。 殺戮と言う名の歌にのせて…。 闇、それを見つめる紅き眼差し、その目に映る悪を撃て。 「3・2・1・0!!作戦開始!!」 『ラジャー!!!』 「よし、X小隊展開開始!頼んだぞ十兵衛!X2!X3!」 「X1!十兵衛!いきます!!」 「X2了解!」 「X3了解!」 次回<凪さん家の十兵衛さん第6話『朝靄の紅眼』>ご期待下さい。 第六話も読む